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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

『春国岱』冬のみどころ

(公財)日本野鳥の会 根室市春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンター
善浪めぐみ

春国岱の冬ならではの鳥との出会いと、春の耳より情報をお伝えします。根室への探鳥旅行を計画していただけると嬉しいです。

■ユキホオジロ

ここ何年かは目撃情報も少なく、見られたとしてもほんの数羽程度でした。それが昨年の2016年シーズンは、11月中旬に目撃されたのを最初に20羽程度のまとまった群で渡ってきて、地元や遠方から来られたバードウォッチャーを喜ばせてくれました。聞くところによるとユキホオジロが食べに来るハマニンニクは、30年以上前は、春国岱の海岸側の砂丘の先端に多く自生していたため、バードウォッチャーも風雪のなかを歩いて、彼らに会いに行っていたそうです。現在は砂丘の形が変化し、ハマニンニクが残っているのは幸か不幸か手前の駐車場周辺に集中しているので、お気軽に見ることができました。群でやって来て、ちょこっと穂先に乗って実を食べたり、仲間が落とした実を探してちょこまか歩く姿が、多くのバードウォッチャーを虜にさせてしまう所以なのだろうと思いました。ユキホオジロは、2月下旬まで観察されました。4、5日姿を見かけないことも何度かありましたが、完全に渡ったのではなく、根室半島内や春国岱の対岸の走古丹を行ったり来たりしているようでした。今シーズンもハマニンニクの生長は昨年並みだと思いますので、ユキホオジロの飛来に期待しています。

ユキホオジロ

ユキホオジロ

■春国岱・森林部散策路再開!

2014年12月に起きた高潮の被害により、森林部のアカエゾマツコースは閉鎖されたままになっていましたが、来春に約3年半ぶりに開通する予定です。管理する根室市に整備を要望する声が多く寄せられ、ふるさと納税を利用して散策路を修復することになったのです。現在は壊れた材木や倒木を、手押し車で運び出す作業をしています。ミズバショウが咲き、カラ類がさえずる季節の森に行くのが待ち遠しいです。

支部報「カッコウ」2017年11月号より

小さな町の小さな畑

日本野鳥の会会員 小林保則

虻田郡ニセコ町字富士見通107番地。ニセコ駅から通称サイレン坂を上って、羊蹄山(蝦夷富士)に真っすぐ延びる通りが富士見通。両脇に役場、町民センター、体育館、いくつかのお寺が並んでいる。昔ながらの住宅街でもあるこの地域にも、今話題のニセコエリア(倶知安町スキー場付近)で働く人々の住宅やアパートが建ち始め、外人さんと行きかう機会も多くなって、「変わりゆくニセコ」を実感する。

こんな街中に、300坪ほどの小さな畑がある。98歳で亡くなった母が96歳ごろまで、慈しんできた畑である。地べたに座って種をまき、這いずりながら草を取り、ゆっくりゆっくり作物を収穫していた。

母のそんな姿が忘れられず、5年前から、週末農業を始めた。

畑と羊蹄山

春、南向きの畑の雪どけは早い。雪が消える前に、畑に残しておいたニンジンを掘り上げる。近くの電線には、シジュウカラやヤマガラやスズメたちが、春が来るよと教えてくれる。やがて雪が消え、時々、アトリが地面を掘り返す。

5月、耕運機で、畑全体を起こす。春の日差しに囲まれているとはいえ、行ったり来たり歩は遅い。耕運機の音を聞いて、春一番毎年訪れる鳥達がいる。近くに営巣している番のハクセキレイと一羽のハシボソガラスだ。掘り返した土の中から出てくるミミズや土中の虫を一心不乱に追いかける。ハクセキレイは手を伸ばせば乗りそうなほどにも近づいてくる。

連休後一番の仕事はジャガイモの植え付けである。堆肥と肥料を入れて、畝を切る。切ったばかりの畝を雌のハクセキレイが歩き出す。その後ろを雄のハクセキレイが、ちょっと離れてハシボソガラスがついてくる。

昔から、農作業を手伝っていて母に褒められた記憶はない。「そんなんじゃだめだ!」母の口癖だった。常に近くに寄って来るこのハクセキレイは、畑の隅々まで歩き回り、まるで我々の作業のダメ出しをしているように見えてくる。この日から、母の名前「律江子」にちなんで、この雌のハクセキレイを「ツエ子」と呼ぶことにした。

5月後半から6月にかけて、トウモロコシの種撒き、玉ねぎ、カボチャ、サツマイモの定植と作業が続く。この頃から、近くのカラマツのてっぺんでカッコウが鳴き始める。畑の上空を横切って公園の街路灯に止まるのが日課のようだ。カッコウの声を聴きながら、豆を撒く。7月、逞しく育った草取りの作業中も「ツエ子」は我々の後をついてくる。来年もまた鳥たちの出会いを楽しみに、週末農業を続けたいと思う。

支部報「カッコウ」2017年10月号より

生息地を丸ごと守る

(公財)日本野鳥の会 野鳥保護区事業所 松本潤慶

渡邊野鳥保護区フレシマ

(公財)日本野鳥の会では、絶滅危惧種のタンチョウやシマフクロウを守るため、独自の「野鳥保護区」を設置しています。1986年に開始したこの活動は、ナショナル・トラストの手法を用いており、寄付金をもとに所有者から土地を購入すること、また所有者と協定を締結して開発しない約束を取り交わすことで、生息地を担保しています。  

道内においては1987年に根室市のタンチョウの繁殖する湿原7.6haを購入し「持田野鳥保護区東梅」が誕生したのを皮切りに、風蓮湖岸のラムサール条約湿地の範囲から外れた湿原群、厚岸町の別寒辺牛湿原、鶴居村の温根内湿原などの、法的な保護策がとられていない民有地を中心に保護区を作ってきました。2004年からは、この手法をシマフクロウへも拡大し、根室地域のシマフクロウの生息地の一部13haを購入して「持田野鳥保護区シマフクロウ根室第1」を設置しました。その後、日高、釧路、知床、十勝の各地域に保護区を広げるなど、積極的にシマフクロウの生息地保全を進めています。2017年現在、当会の道内の保護区は33ヶ所、3,559ha(タンチョウ:2,873ha、シマフクロウ:856ha)まで拡大しました。

このように当会では、北海道東部を中心に、広大な湿原や森林を保護区としていますが、それらの環境を維持し、末永く保全するためには、適正な管理を続けることが重要です。2006年には、根室市内に野鳥保護区事業所を開設し、専属職員が巡回や調査、環境管理を行なっています。近年では、地域の子どもたちとの森づくりや、企業のCSR活動の受け入れ、支部の探鳥会、ツアーのご案内などを通して、より多くの方々へ当会の活動を伝えています。そして、シマフクロウの生息数回復のため、繁殖補助のための給餌や、巣箱の設置も開始しています。

渡邊野鳥保護区ソウサンベツのタンチョウ親子

このような活動の甲斐もあり、道東にのみ生息していたタンチョウは約1,800羽まで回復し、道北や道央の一部へ分散しています。また、シマフクロウの個体数は約140羽と予断を許しませんが、分散個体が道央圏まで出没し始めています。この北海道を代表する2種が、札幌近郊で普通に見られる日も近いかもしれません。彼らが安定して生息するためには、湿原や森林の豊かな自然環境が必要です。その日を目指して、皆さんとタンチョウやシマフクロウの生息環境を守り、育てる活動ができれば良いなと考えています。

支部報「カッコウ」2017年8月号より

札幌は日本一のコウモリ都市

コウモリ写真家 中島宏章

主要都市のコウモリ

<衝撃の事実!>
 いきなりですが、表を見てください。日本の主要都市と数字が並んでいますね。これは何の数字だと思いますか?実はこれ、各都市で確認されているコウモリの種数なんです。なんと、札幌市はダントツで1位ですね!17種ものコウモリが確認されています(北海道全体では19種)。いまや札幌も190万人都市。しかし、このコウモリの事実を知っている人はつい最近までは僕だけだったでしょう(笑)。今日からはこの記事を読んだ皆さんも仲間入りです♪

<コウモリは指標生物>
 コウモリという生物は多様な環境に適応しているため世界に1300種もいる大所帯です。日本にも37種(絶滅種2種も含める)が確認されています。
 札幌が日本一のコウモリ都市という件について、面積も違えば(札幌は約1100km2、東京23区は約600km2)、含まれる環境も違うから、一律に比較出来ないじゃないか?という指摘もあると思います。その通りです。札幌は面積も広い上に、他の都市に比べて森林の割合が非常に高いですよね。だから、コウモリがたくさんいて当たり前じゃないか。その通りです。だから逆説的に「コウモリがたくさんいるということは、札幌は多様な自然環境を有している」ということの証拠みたいなものですね。「コウモリを見れば、そこの自然のことが分かる」ということです。
 そういう意味では、大都会の東京や大阪や名古屋のコウモリが少ないのも当然と言えます(ちなみに東京都全体だと、多摩や島嶼部も含まれるため14種まで跳ね上がる)。

<札幌自慢>
 札幌は「コウモリがたくさんいるから」素晴らしいんじゃなくて、、、「たくさんのコウモリが暮らしていけるほど豊かな自然があるから」素晴らしいのだと思います。コウモリを通じて、自分たちが暮らしている札幌の魅力に、市民の皆さんが改めて気づいてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。

支部報「カッコウ」2017年7月号より

カラスと共に行動する

NPO法人札幌カラス研究会代表 中村眞樹子

 札幌の6月と言えば散歩や自然観察などにちょうど良い気候で、繁殖中の鳥たちが忙しく食べ物探しに動き回っている姿にも遭遇できる。希少種や見た目がかわいいカモ類だと微笑ましいニュースになる場合が多い。特にカモ類の親子の引っ越しになると警官が誘導するなんて事もある。人間という生き物は見た目に左右されやすい傾向が強いと思うのである。

 私が長年研究対象にしている鳥は知らない人がいないに違いないはずのカラス類である。しかしカラスと一言で終わらせられていて実にもったいなく損をしている気がしてたまらないのである。カラスと一言で言っても「ハシボソガラス」「ハシブトガラス」がいてきちんと別種として記載されている。種が違うという事は行動も違っていて当たり前なのだが、いまだに十把一絡げにされている場合が多いのが現状かもしれない。

 幸いにも札幌市ではボソとブトを分けて考えて対応するようになってくれたので、ボソの場合は巣があっても看板設置をして見守ってもらえるようになった。10年以上前だと考えられない対応だよね。役所でもどこでもそうだけどレールに乗っているルールを変えるのってギャンブルに近く、成功すれば名が残るが失敗に終わると悲惨である。

 この原稿を書いている目の前をカラスたちが忙しそうに右往左往して飛び交っている。飛び交う理由はゴミ回収車や歩きながらパンを撒いている人を追いかけているからである。あとは近隣で子育てをしているカラスが給餌のために食べ物探しをしているからである。最近は見られなくなって残念だが薬局の店先のワゴンに入っているお菓子を万引きするカラスがいてそれはそれは見ていて楽しかった。(笑)
札幌は都市部の割にはブトとボソがある程度バランスよく生息していてお互いに意識しあいながら暮らしているのだと思う。ボソの方の繁殖開始が早く5月の最後の週にはかわいい雛の巣立ちが始まる。しかし繁殖開始が早い分5月にある通称「リラ冷え」にぶつかり、強風や低温が続いてしまうと孵化したばかりの雛の体温維持が出来ないのかGW明けに放棄してしまう番も少なくない。すぐに再営巣するボソもいるがそのまま止めてしまう場合も少なくない。
その分ブトは4月中旬に抱卵に入る場合が多いのでリラ冷えの時はまだ卵なので守りやすいのだろう。放棄する番は比較的少ないかもしれない。しかしもしもブトもボソも同時に繁殖を始めたらきっと大変な事になるだろうと思っている。もちろん確証はないけど、雛への給餌に伴う食べ物の取り合いやブトがボソの巣に入り込んで卵や雛を食べちゃうとか色々と想定される、微妙な繁殖開始のズレが子孫を残すための戦略なのかなと思うのである。
カラスという鳥は住んでいるエリアによって同じ種であっても行動が違うという面白い鳥である。特に札幌のカラスはフレンドリィな面が多く、本州の人からは驚かれる事がある。しかし私はカラスの方が上手に人間を観察して利用しているように思えてならないのである。
書きだしたら止まらないのだが今回はここまでで終わり。最後にちょっと私事になるけど宣伝を。。。。

「2017年9月に北海道新聞社より『札幌のカラス』を発売予定」

 日本にはたくさんのカラスに関する本が出版されていますが、札幌のカラスという地域限定の面白い行動を紹介する内容になります。今執筆中ですが9月に発売されたらぜひお買い求め下さりカラスの魅力に取りつかれてほしいと思います。

支部報「カッコウ」2017年6月号より

女子探鳥会のとりくみ

日本野鳥の会オホーツク支部幹事 川崎 里実

「女子会という集まりがあるんだから、女性だけの探鳥会があってもいいんじゃない?」という軽い思いつきで、女子探鳥会は始まりました。
参加者は女性限定。企画や広報、当日の案内(探鳥会リーダー)も、すべて女性が行います。

女子探鳥会はいざ始めてみると、いつもの(男性の)メンバーがいないのでちょっと寂しいような・・・気もしましたが、すぐに和気あいあいとした楽しい雰囲気で鳥見を楽しむことができました。女性だけのグループで1羽・1種類の鳥に出会うと、その場で時間をかけてじっくりと観察できるような印象があります。シジュウカラやマガモなどごく普通の鳥でも、なにげないしぐさを見ては「かわいい!」「何を考えているのかな?」などと想像します。たとえ鳥が出なくても、一緒に歩いているだけで会話が弾みます。なんと素晴らしいのでしょうか。おまけに時々パートナーの愚痴が飛び出したりして、ストレス発散にも効果あり?!

女子探鳥会

探鳥会後にはランチやお茶を楽しむ時間を作りました。昼食を食べながらおしゃべりを楽しみ、初対面の方や初めて参加された方も、ゆっくりと交流できるようにしています。
そしてイベントを企画・実施するにあたって、大切なのがPR。支部報と支部のHPのほか、北海道新聞(地方版)と網走・北見地方のローカル情報誌に広報していただきました。会員だけでなく非会員にも知ってもらえるように広く広報することをこころがけています。「女性ならどなたでも歓迎」の姿勢と話題性もあってか、時々地方紙の記者さんが同行され、記事にしていただくこともありました。ちなみに同行される記者さん・カメラマンさんも女性限定。「もし男性記者さんが来られる場合は女装してください」とお願いしていますが、まだ残念ながら(?)その実例はありません。

参加された皆さんからは「女性なら初歩的なことも優しく教えてくれそう」「申し込み不要なのが助かる」「みんなで食べるランチが楽しい」などのご感想をいただいています。女子探鳥会をきっかけに初めて探鳥会に参加された方もおり、他支部からも関心を寄せていただくなど、交流の幅が広がったと思います。女性幹事も参加者も、皆さんが「あー、楽しかった!」と言ってくださることがとても嬉しく、やりがいを感じます。

今後の課題としては、女性幹事は探鳥会の担当役(リーダー)となると荷が重いと考える方が多いため、なかなかリーダー役のなり手がいないことが挙げられますが、例えば手芸が得意な方に講師役をお願いしてワークショップ形式のイベントにするなど、女性ならではの楽しく無理のない企画ができたらと思っています。

支部報「カッコウ」2017年5月号より

バードウォッチング長靴誕生物語

日本野鳥の会普及室 瀬古智貫

 「バードショップに若い女性が来ているぞ」という声が聞こえてきたので、のぞいてみると・・・。確かに20代の女性が「バードウォッチング長靴」を選んでいます。(公財)日本野鳥の会の事務所に隣接しているバードショップのお客様の中心は、50~60代の男性。若い女性は、まさに珍鳥です。恐る恐る「何に使うのですか?」と聞くと、「野外フェスティバルです」「テント等荷物が多くて、小さくなる長靴はGOOD!!しかも軽いから長時間履いていても疲れないし、フィットしたつくりなので会場内を移動する時にダッシュできるし!」と、こちらが想定していない使い方を教えてくれました。その後、口コミで広がり、ガーデニングやゲリラ豪雨対策、普段使いと広がっていきました。

長靴誕生物語写真

 ところで皆さんは「バードウォッチング長靴」をご存知でしょうか?小さくして持ち運びのできる長靴で、ぬかるみや干潟等、バードウォッチングシーンで必要な時に取り出して使用することを目的とした商品です。昨年は、長年にわたり消費者に支持されている商品に贈られる「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しました。
商品誕生のきっかけは、日本野鳥の会会員からのメールでした。この方が北海道にバードウォッチング旅行に行った際、長靴が必要な場面になってしまいました。最初は通常の長靴を購入しようとしたそうですが、旅行中のため大きくて嵩張る長靴を持って帰るのは大変。かといって、捨ててしまうのはもったいない。悩んでいると、田植え用長靴が目に入りました。田植え用長靴はゴムが薄いため、小さくまるまった状態で販売されていました。これなら使った後も小さくなるので、持って帰れる!と思い、その場で購入しました。さらに、実際に使ってみると、なかなかの使い心地。これを商品化したら面白いのではないか!と思い、帰宅後、すぐに日本野鳥の会と田植え用長靴の製造メーカーに、北海道での体験談を記したメールを送ってくれたのです。

 この「奇跡のメール」がきっかけとなり、日本野鳥の会とメーカーが出会い商品企画が進み、2004年4月にバードウォチング長靴が発売されました。
田植え用長靴を製造しているメーカーの方は、「長年田植え長靴を見ていて、小さくなることは当たり前だった。しかし、この機能が持ち運べるという発想には全く繋がらなかった。十年以上経った今でも驚きです。」と話しています。
商品企画というと、顧客ニーズ、マーケティング等、少しハードルの高い話に聞こえてしまうかもしれませんが、ヒントは意外と身近な場所にあるのかもしれません。商品や情報が溢れる今の時代、全く新しい物を作り出すのは難しいと思いますが、今ある商品の見方や使い方を変えると…。ほら、そこにも! あそこにも! あなたも、大ヒット商品の生みの親になれるかもしれませんね。

支部報「カッコウ」2017年4月号より

スズガモに魅せられて

日本野鳥の会東京 幹事 保護部担当  飯田 陳也

臨海・海浜公園

葛西臨海公園は、毎年三~六万羽のスズガモやカンムリカイツブリが千五百~三千羽が訪れる公園である。私はそこに沢山いる鳥がその環境を表現する鳥として大切だと思う。

オープンは平成元年(1989)だが、鳥類園は野鳥のための環境整備をして五年後に開園。日本野鳥の会東京はこれを機に探鳥会を定例化して毎月第四日曜日に実施してきた。

特筆したいのは、この公園の海側に広がる海浜公園だ。海に向かって弓型にまがって広がる土手は臨海公園の付属のように見られている方が多いが、沖の三枚洲を埋めずに残すため考えられた「海上公園」が初めて実現したところである。荒川と江戸川の大きな二つの河が運んだ泥や砂が葛西沖に大きな干潟を形成していた。

戦後の復興期、干潟を埋め工場を誘致して国を挙げて生産をあげる産業育成策は空気が汚れ、川や海水が汚染しスモッグの発生や背骨の曲がった魚が出現し、危機感を持った漁師や釣り人、野鳥の会などが、生活を奪うな、ハゼの釣れる海を埋めるな、野鳥の住処を埋めるなと声をあげた。九割ほど埋め立てが進んだ東京湾の埋め立てにブレーキがかかった。

そして当時の革新都政はこれらの声を尊重し「生き物豊かな公園」を目指して都と江戸川区による葛西沖再開発事業が進んだ。(「今よみがえる葛西沖」東京都建設局発行より)。

スズガモ

二〇二〇年のオリンピックが東京に決まった時、野鳥の会はこれらの経過を踏まえ、臨海公園の1/3の緑地を壊しての会場づくりは見過せない、都自身が造った生き物の聖地を自ら壊すのは自己矛盾であり、オリンピックの理念にも反すると主張し、十一回の交渉を経て要望通り会場が公園の外に移った。自然保護団体の要望がその通りに実現したまれな例である、このことがその後のオリンピック会場見直しの幾つかに流れを変えるきっかけとなった。

今この環境をラムサール条約に登録しようと一年ほど前に準備会を立ち上げ、基金の助成を受けて年末十二月十八日には法政大学で二百名を集めてのシンポジウムを成功させ
た。十八年のcop13での登録を目指している。

支部報「カッコウ」2017年 3月号より

波の上を飛ぶハマシギの群れ

札幌支部会員 高橋 良直

 私のハマシギの写真が日本野鳥の会の二〇一七年のカレンダーに採用されました。撮影したのは二〇一五年十月二十三日、撮影場所は通称新川河口から砂浜を北側に三キロメートルほど進んだあたりです(小樽市銭函五丁目)。五十羽ほどのハマシギが波打ち際で採餌しており、眺めていると何かの拍子に一斉に飛び上がりました。ハマシギなどは元の場所に舞い戻ることが多いので、カメラを取り出して撮影の準備をしました。すると一部がユーターンして私の方に向かって来たので夢中でシャッターを切った次第です。

ハマシギ

 帰宅後パソコンで見ると二十七羽のほとんどにピントが合っていて、我ながら驚きました。気持ち良さそうに飛ぶ個々のハマシギの生き生きとした表情までがとらえられています。意図したわけではないのですが、波打ち際から少し離れた小高い場所に立っていたため背景に白波が取り込まれ、それによってドラマチックでスケールの大きな写真になったと思います。 ところで、この写真の撮影場所からすぐそばの石狩湾新港の沖では大規模な洋上風力発電が計画されています。風力発電そのものを否定するわけではありませんが、海上に並ぶ二十六基もの巨大風車がシギ類などの渡り鳥にとって大きな脅威になることは容易に想像できるところです。何よりも自然の景観をぶち壊すこのような巨大風車建設が許されていいわけはないと思います。

 なお、私事ですが、野鳥の写真だけの個人的なホームページを作っていますので、興味のある方はご覧下さい。

 フォトアルバム「北国の鳥」
アドレス http://kitaguni.art.coocan.jp

支部報「カッコウ」2017年 1,2月号より

カワガラスと遊ぶ

鳥類標識調査員(釧路市) 梅本 正照

尾が短くて黒褐色のミソサザイの形を、ムクドリやアカハラサイズに大きくしたような「地味」なカワガラスは、同じ渓流に生息するヤマセミやカワセミに比べると、やはり人気は今ひとつと言うところでしょうか。でもこのトリの他のトリにない特異な行動を一つでも認識できたら、きっとまた渓流に足を運ぶことになるかも知れません。

私は、以前伐採による河川の汚濁とカワガラスの生息環境について調査する必要から、5年間で約300羽ほど捕獲した経験があります。この時の話をチョット…。

2016年12月鳥参上カワガラス

カワガラス(幼鳥)

カワガラスの飛翔は他のどんなトリとも違っていて、沢筋の流れに沿って直線飛行、しかも腹部が水面に接するほどの超低空で飛ぶ。こんな特徴がはっきりしているトリの捕獲は実に簡単で、猟具の「カスミ網」を流れに対して直角に架設すればあとは待つだけ。上流から飛来するか下流からか。必ずビッビッとかジェッジェッと鳴きながらやって来ます。そしてカワガラスは重い(アカハラより15グラム~20グラム)。この重いヤツが勢いよくドーンと突っ込んで来るので、カスミ網の大きく膨らんだ深いポケットに入って、捕り逃がすことはまずない。しかし、何時飛来するかわからぬまま、ただ網の傍らで待つだけでは非能率的で、第一退屈すぎます。そこで網をそのままにして、上流か下流に移動してカワガラスを探しますが、これもよく鳴いているのでわりと簡単に発見できます。背後にまわり込んで静かに近づくと、胴長の音や気配に驚き、すぐ飛び立って先へ2、30メートル飛んで止まる、また静かに近づく。これを繰り返し、架設している網に向って追い立てるわけですが、捕獲した300羽のうち70パーセントぐらいはこのようにして捕ったものです。ところが、あるところまで移動したとき突然逆に我が方に向って来るときがあります。こんなこともあろうかと常に柳の枝とかイタドリを持ち歩き、このときとばかり振りまわしながら「来るナ!」とか「モドレッ」とかわめきちらして阻止しようとするのですが、すれすれのところを猛スピードで通り抜けられてしまいます。

あるとき、川岸の柳が2、3本傾いてちょっとしたトンネルになっていました。この中を通り抜けていったばかりのカワガラスが、反撃に転じたように猛然としかも眼の高さで突っ込んで来た! このときの迫力今でも忘れていません。恥ずかしながらビビッたのです。夢中で振りまわしたので叩き落してしまったと心配しましたが、ナント左脇の下を通り抜けて行ったようです。つまり彼等にはUターンは無い!と言うことでしょうか。

支部報「カッコウ」2016年12月号より