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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

河川の現状報告~河床低下とその課題~

建設コンサルタント会社勤務 角田 武

野鳥とほとんど関係ない話なのですが、縁ありまして記事を担当しました。今回は河川の話に少しお付き合い下さい。

私は、勤め先の建設コンサルタント会社で河川調査に18年ほど携わってきました。ここでは河川管理においてホットな話題である河床低下の問題を報告したいと思います。

河床低下とは文字どおり河床(川底)の高さが低下することを言います。通常の河川は河床に厚く砂礫が堆積しています。しかし、砂礫が流出すると河床には岩盤が露出し、次の段階では岩盤自体も洗堀されていきます。身近な例では真駒内あたりの豊平川が正にそうですね。

では、なぜ河床低下が起きるかというと、何らかの原因によりそこに溜まる砂礫よりも流出する砂礫の方が多くなるためです。つまり土砂収支のバランスが崩れた状態であり、このような川は「健全な川」ではありません。

河床低下は、水生生物の生息や産卵場所として大切な瀬・淵・わんどの消失、河原で繁殖する生物(カワラバッタ・コチドリ等)の繁殖地減少を引き起こし、自然環境へ大きな負の影響を与えることが明らかとなってきています。更にこれが重要なのですが、一定ラインを超えた河床低下は、税金を投入して整備した護岸や落差工などの河川管理施設を不安定にし、川を「危険な場所」にしてしまいます。

河床低下の本質的改善は流域の土地利用形態まで話が及ぶため実施は困難です。しかし、現状の自然環境や河川管理施設は維持していかねばなりません。河床低下の問題はここがクリアできずに、今、河川技術者たちは悩みながら改善技術を模索しています。

河床低下の改善、つまり礫河床の再生方法を技術的に確立することは、河川管理における本質的且つ最大の課題の一つといってよく、今後、私も貢献していきたい分野です。

支部報「カッコウ」2019年12月号より

「ようこそ、イラストから昆虫の世界へ」

栗山町 ふるさといきものの里オオムラサキ館元スタッフ
イラストレーター 照井奈都美

「国鳥」といえばキジですが、「国蝶」なるものがあるのはご存知でしょうか。日本昆虫学会によりオオムラサキが選ばれています。空知の栗山町にはオオムラサキを間近で観察できる「ふるさといきものの里オオムラサキ館」があり、私はオオムラサキのイモムシが好きだった事をきっかけに、縁あってこの施設のパネルやグッズなどのイラストを描いています。

日々昆虫に囲まれていると感覚が麻痺してしまいますが、多くの方は生きた昆虫が少しこわい。図鑑を暗記するくらいクワガタが好きな小学生が、初めて生きたクワガタを見た時の第一声は「ぎゃああしまって!」でした。好きな子でも本物を前にこの反応、多くの来館者は昆虫と疎遠な方だし、ましてや私が推したいのはクワガタより嫌われがちなイモムシ。でも可愛いのでみんなに見てもらいたい!ならば先にイラストで可愛い印象を与えてしまおうと、解説パネルの写真をイラストに変え、グッズにもイモムシを多めに描くことにしました。すると成果はすぐに現れ「ツノが可愛いね」「本当にこんな顔してるのかな?」と子どもや女性の興味を引き、本物のイモムシを楽しそうに観察する方が増えたのです。中には「イモムシ大きくなった?」と通う方や、イモムシグッズをコンプリートしてくれる子も。こうして、自分のイラストを通じてイモムシに興味を持つ方が増える快感を味わってしまった私は、更なるイモムシグッズ制作に精を出すのでした。その甲斐あってグッズの一番人気も渾身のイモムシグッズ…とはいかず可愛く描けたシマエナガのマグネットが大変人気です。

ふるさといきものの里オオムラサキ館

ふるさといきものの里オオムラサキ館 グッズ

国蝶オオムラサキが青紫色に煌めく翅を広げるのは7月、そして愛らしいイモムシの姿は6月頃がお勧めです。探鳥などで近くにお越しの際はぜひ栗山町へお立ち寄りくださいませ。

支部報「カッコウ」2019年11月号より

二枚貝の中にカニを見つけた経験はありませんか?
~カクレガニの不思議な生態~

公益財団法人 日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
レンジャー 田島奏一朗

突然ですが、皆さんは味噌汁やレストランでムール貝の入った料理を食べた際に、「二枚貝の中にオレンジ色の小さなカニが入っていた」という経験はないでしょうか。私は大学時代、このカニについて研究していたので、その不思議な生態をご紹介します。

フタハピンノと宿主二枚貝

まず、端的にいうと二枚貝の中で見つかるカニ(カクレガニ)は貝に食べられているわけではなく、寄生または共生し、貝の食べる餌を横取りしています。二枚貝が隠れ家になっているのです。研究対象であるフタハピンノは数種類の二枚貝に寄生し、その寄生率は約80%もありました。では一体どのように二枚貝の中に入るのかというと、抱卵後に孵化した幼生が稚ガニとなった段階で貝へ侵入すると考えられています。また、成長したカニ(最大で甲幅1㎝程度)も二枚貝を自由に出入りできますが、飼育実験では貝に挟まり身動きがとれずにいる面白い光景も見られました。海外では別種のカクレガニが二枚貝の縁の隙間を最長4時間くすぐり続けて侵入することもわかっています。さらに寄生するフタハピンノと寄生された二枚貝の大きさの関係を見てみると、貝が大きいほど寄生するフタハピンノも大きくなっていました。二枚貝の閉じ込められた暗い世界の中で、カクレガニはひっそりと成長しながら暮らしているのです。

しかし、二枚貝の側から見るとよそ者が侵入してくるのは迷惑な話です。何か影響があるのか身入率(軟体部湿重量/殻重量×100%)を用いて調べたところ、フタハピンノに寄生された二枚貝は、寄生されていない二枚貝よりも中身の重さが少なくなっていました。フタハピンノの体サイズが大きくなるほど横取りされる餌の量も増えるため、悪影響が出てしまうのかもしれません。普段よく口にするアサリやマガキなどに寄生する別種でも、身入りに悪影響を及ぼすことがわかっています。

カクレガニは交尾をどこで行うか等、まだまだ生態の解明されていない謎めいた生きものです。皆さんも二枚貝を食べる際は、カクレガニが入っていないかどうか意識して探してみてはいかがですか。

支部報「カッコウ」2019年10月号より

いしかり森林ボランティア「クマゲラ」

いしかり森林ボランティア「クマゲラ」代表 若松隆

北海道の森林面積は554万haで全国森林面積の約四分の一を占め、林種別では天然林が豊かである事が特徴です。「クマゲラ」活動は森林保全に係る普及啓発などを目的に市民、行政、企業などと連携し、厚田区千年の森や石狩市高岡五の沢などをフィールドに市民レベルでボランティア活動を行っています。平成15年(2003年)の設立以来、季節ごとに枝打ちや間伐等の手入れ、苗木里親運動募集し植樹活動や各学校対象に森林教室を行っています。

環境教育として

昨年9月は北海道胆振東部地震、厚真町などの自然大災害には驚きました。環境教育活用の場「五の沢」の森も強風による倒木などで森林学習散策コースも大変な被害でした。毎年、春秋2回石狩市立緑苑台小5年生対象に森林総合学習を実施していますが、危険な個所が多くなり今年度はコースを急遽変更し、春は花川南防風林、秋は野幌森林公園となりました。5月10日事前に校内授業で森林の仕組み(動物・植物・微生物)や、南防風林に生息している稀少植物や絶滅危惧種を含むクマゲラ、エゾリス、キタキツネなどを写真で紹介し普段林内へ足を踏み入れる事がない子供たちに森の大切さや楽しみ方など体験させたい主旨で実施。6月11日には南防風林に於いて森林散策や、丸太輪切りなど小学5年生にふさわしい木育授業だったと思う。


普及啓発 “市民と会員で楽しむイベント”として

キノシュ木育里親運動制度とは 市民、道民が木の里親になり家庭の間で森づくりに参加できる地域緑化森林保全の意識を高めるための事業です。 ポットとドングリの種を用意し10月から翌年5月頃まで公共施設2か所に回収ボックスを設け自由に持ち帰り、戻った苗木を「森」へ植樹する。現在、「千年の森」などへ針・広葉樹8000本以上植栽しています。里親運動でご協力頂いた大切な木(苗)も森で現在順調に育っています。毎年一般向けのイベントとして専門講師をお招きし “春の森を歩こう山菜教室”や一般市民と会員も楽しめる “秋の森を歩こうきのこ教室” も開催し大変好評です。


作業現場では

ネマガリダケやとニセアカシアの多い場所にぶつかると地拵えも厳しいです。ササ刈後は翌年春に植林し2~3年後からは下草刈りから始まり保育の手入れ間伐へと作業は継続して行きます。設立当時から手入れの行き届かない森を健全な状態で後世へ残す事が我々の役目ですが、会員の減少、高齢化による人手不足、地球温暖化などで結果は直ちにはついてきません。「森」を育てるには長い年月と時間が必要です。会員の安全を第一に我々は日々努めています。

支部報「カッコウ」2019年8・9月号より

   

愛(かな)よ愛よシロハラクイナ

音楽家 林田 健司

僕が初めて彼に出逢ったのは雨上がりの石垣島。夕陽を追いかけてやって来た西海岸近くサトウキビ畑に挟まれた小径を歩いていた時彼は突拍子もなく、それは手品師がシルクハットから鳩を出すようにポンッと目の前に現れた。一瞬怯んだ次の瞬間その彼の愛らしいフォルムに目を奪われ立ち止まってしまった。どちらかと言うと鳥類が苦手な僕だが、彼の姿カタチと立ち居振る舞いにすっかり一目惚れしてしまったと言うわけだ。

彼は右側のサトウキビ畑から左側のサトウキビ畑へ移動するのに夢中で、ここが車の通る道だから気を抜いたら一発で殺られるということを知ってか知らぬかは定かではないがとにかく一心不乱に目的地を目指して左右の確認や道路を縦断する時の猫のようにキョロキョロと周りを見てゆっくりと、それでいて警戒心を決っして忘れないというような動きとは正反対でただ、ただ一目散に駆け抜けて行くのだ。僕はもう堪らなくなり思わずその様子にニッコリとした。それからと言うもの僕は島を車で走る時には彼等の姿を常に探し、尚且つ万全の注意を払っているのだ。

彼等の余りにも真っ直ぐな生き方が災いを呼び、道端で息絶えている姿をたくさん目にすることになったからだ。

観光で来たドライバーにとって信号の少ないこの島はさぞや気持ちのいいドライブとなることだろう。まさか飛ばないでわざわざ道を渡る鳥がいるなんて思わないモンね。石垣島の天然記念物に指定されていない彼等は、「だからねぇ~」そんなにみんなから大事にされないかっ。哀しい姿はよく見かけるけどねっ。それは結構見慣れた風景だしっ。「だからねっ。」でも僕にとって彼等は愛すべき存在なのだ!だからあぁ少しでも彼等の事を知ってもらえさえすればいい。島に来た時には道の端っこにも注意して、都会にはない生きものの暮らしにも目を向けて、綺麗な海や美味しいものだけでなく命(ぬち)ぐすいの島にある全ての豊かさも旅の思い出として持ち帰ってさえくれたらいい。

現在、島に住まわせて頂いている僕ができる感謝の思いのひとつとしても、まだ石垣島の事も「ヤンバルクイナは知ってるけどシロハクイナを知らないな」って人たちにも伝えたい事があるのでまずは僕がこのTシャツを着て活動する事で彼等に興味を持ってもらうことから始めてみよう。

散歩の途中、海を目指して車を走らせている時、僕はいつも願うのだどうか彼等に出会えますように。愛よ愛よ…シロハラクイナ。

シロハラクイナ

支部報「カッコウ」2019年7月号より

「仏沼地域の希少種」と「思わぬ発見」

青森自然誌研究会会員 日本野鳥の会会員(青森県支部) 安藤一次

<仏沼地域の希少種>

青森県と北海道の間にある津軽海峡は、最後の氷河期に海面が低下したときでも陸続きにはならなかった。イギリスの動物学者、トーマス・ブラキストンは、この海峡に動植物分布の境界線があるとみてブラキストン線を提唱された。北海道が南限、青森県が北限といった生き物が多く見られます。小川原湖から仏沼地域は、この動植物分布の境界線の南にあり、北限種のチョウトンボ、ルリハダホソクロバ、平地で南限種のオオバナノエンレイソウ(北海道大学の校章)、エゾオグルマなどが見られます。

また、本地域は、やませ(偏東風)の影響で6月~8月に冷たく湿った東よりの風が吹くところです。平地であってもミツガシワなどの高山性の寒冷地植物がみられ泥炭地にマークオサムシなどもが見られます。

希少種のオオセッカは、翼角に小さな爪ある原始的な鳥で日本の固有亜種です。竹谷彦蔵が1936年に中西悟堂らと仙台市南蒲生でオオセッカらしい姿を目撃し、その後8月9日繁殖確認されるまで生息地や繁殖地が全く分からない「幻の鳥」だった。1973年に仏沼で確認され、日本全体のオオセッカの生息数はおよそ2,500羽のうち1,200羽ほどが生息しています。環境省のレッドリスト掲載種についてオオセッカ以外では、1999年7月にチュウヒの繁殖、2000年5月にサンカノゴイ、2003年7月にシマクイナの複数個体が国内で初めて繁殖が確認されています。昆虫では、オオキトンボ、マルガタゲンゴロウが植物では、ヒンジモ、エゾナミキソウが確認されています。

<思わぬ発見>

思わぬ発見について振り返ると、好奇心を持ち、フィールドワークで得た知見を働かせて「違い」を見逃さないことが重要かなと思います。新種「フカウラトウヒレン」の発見は、国立科学博物館名誉研究員の門田裕一博士による同定及び論文記載,「小川原湖のヒメマリモ型マリモ」の発見は、マリモ研究の第一人者若菜勇博士(釧路市)の同定によります。青森県初記録の「ツノメドリ」は、日本野鳥の会十勝支部、道南檜山支部、青森県支部の方々からの有益な情報提供によります。お世話いただいた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。思わぬ発見で心が揺さぶられる感動を覚えます。一方で、こうした発見は生活の足しにもならないし、多くの時間を費やし無駄で非効率的です。近年、ディープラーニング、人・ロボット・情報系の融合複合した技術で,AIが喜怒哀楽などの表現もできるようになってきています。AIの活用で迷鳥との出会いや識別困難な生物の同定が効率的にできるようになるかも知れません。いづれにしても個性豊かな地域における「野生生物」の生息地が確保されて、「生物多様性」がいつまでも維持されることを願っています。

ツノメドリ

支部報「カッコウ」2019年6月号より

「意外と見られる!?トラフズクとコミミズク」

道央鳥類調査グループ 先崎啓究

10月 岩見沢市 夜間、餌を探すトラフズク

夜行性のフクロウ類はどれくらい生息しているのだろうか?そんな疑問が湧いてきたのは、日中は稀にしか見られないトラフズクが、夜間探し回ると実は日中より多く見られることを実感しだした2009年頃になります。では、いつ、どんな場所でどのくらいいるのか。そんな興味に駆り立てられ、彼らの生態に合わせていつしか自分自身も「夜行性」となる日が増えてきました。探し方は単純です。秋季~冬季の日中にフクロウ類が生息してそうな環境に目星をつけ、夜間にライト片手にひたすら探し回ることをずっと繰り返します。初めのうちは、絞り込む環境がよくわからず、一晩で1羽見られれば御の字でした。それが次第に種類別の好みがわかり、今ではどの時期にどんな場所に行けばどのような種に出会いやすいのか、ある程度の傾向が分かるようになってきました。

観察機会が多かったコミミズク、トラフズクについて、近年よく通っている石狩川下流域(江別市~美唄市辺り)での例を中心に紹介します。まず、両種とも、風が弱い日に多く観察される傾向がありました。冬鳥であるコミミズクは、実は結構早い時期から見られることが分かりました。当地では、例年10月10日過ぎに初認され、それから積雪で地表が見えにくくなる12月上旬まで見られます。多い日には一晩で10羽程見られることもありました。試しに夜間に観察できた場所を翌日の日中に探し回ってみると、ほとんど見つかりませんでした。夜間出会うコミミズクは、草丈が短い開けた環境で見られることが多く、飛びながら餌を探したり、杭や地上で休む姿がよく見られました。続いてはトラフズクですが、こちらも10月10日頃から石狩川下流域で多く見られ始めます。コミミズクよりも飛来のピークが出やすく、概ね10月下旬までにピークを迎え、11月に入ると観察数が減っていく傾向がありました。ピーク時には一晩で20羽程を観察できたことがありましたが、この時は「当たり年」だったようで、大体一晩で10羽程見られることが多いような印象です。こちらはコミミズクよりも背丈が高く、灌木が混ざる草地でよく見られました。また、石狩川下流域で数が減る10月下旬以降は、北広島市や恵庭市、千歳市などの石狩平野南部で徐々に観察数を増やすことが分かり、石狩川から平地沿いに南方へ渡っていることが示唆されます。

道内ではこの2種以外にも多くのフクロウ類が生息しています。今後、他のフクロウ類に関しても時間の許す限り迫ってみたいと考えています。

支部報「カッコウ」2019年5月号より

ハクチョウの北帰行

大館和広

 今年の冬は過ぎてしまえば暖冬でした。2月上旬に厳寒がありましたが一瞬でしたね。暖冬の影響を直接見せてくれたのがオホーツの流氷でしょうか、この依頼を受けた2月末、オホーツクの海はすでに青一色だったのです。それでも今冬は興味深いことがありました。それはまた別の機会にお話しできたらと思います。

 前置きが長く申し訳ありません。ところで皆さんは鳥が渡る、移動するというというのを意識したことがありますか。そのような場面に出会ったことはありますか。それを見られるのは例えば室蘭のタカ、白神のヒヨドリ、宗谷岬のワシなどが代表的な場所ですね、毎シ―ズン楽しみにしている人は多いでしょう。日本は島国ですから、渡り鳥は海を越えて往来するというのはカンタンに想像することが出来ます。しかしそれを実際に「見る」のはそう簡単ではありません。だからこそ、出会った時は言葉では言い表せない感動です。私のフィールドであるコムケ湖では、湖を飛び立ち海を越えて北に帰っていくハクチョウの渡りを見ることが出来るのです!。単に飛んで行く群れを見るということではなく、北を目指して飛んで行く群れが見られるのです。

 条件の揃った早朝、前夜から落ち着かず、広くもない湖をあっちへ泳ぎ、こっちへ泳ぎしていた群れは、太陽が昇ると意を決したように鳴き交わし勢いよく水面を蹴って飛び上がります。ある群れは迷いなくまっすぐ北に向い、ある群れはまだ踏切りを付けずにいる水面の群れを誘うように、上空を旋回して北に向かって行きます。私の上を過ぎたひとつの群れは海面より高い高度で飛び続け、ひとつの群れは海面すれすれに飛び続けて行くのです。羽ばたく白い群れはだんだんと遠くなり、やがてうごめく1本の白い線になり水平線の彼方に見えなくなっていきます。鳥が空を飛ぶ生き物であることを、渡り鳥が海を越えて行くということを現実として見せてくれるのが、体感させてくれるのがコムケ湖のハクチョウの北帰行なのです。

 ああ、私にもっと文才があればもっともっと感動的にお伝え出来るのでしょうが、これで精一杯ですごめんなさい。
コムケ湖のハクチョウの北帰行は4月中旬以降の早朝に見ることが出来ます。北帰行には条件が必要なようで、天気図的には高気圧が東に抜けた直後の南風が吹く時が多いようです。それが休日に重なることは奇跡的なのですが、だからこそ出会えた時の感動は大きいのだと思います。いつもはライフリストを増やすことに熱心な人にも是非これは見てほしいと思います。場所はコムケ湖の海岸道路からなら何処でもいいです。時間は日の出頃から8時頃にかけてですが日中も渡って行きます。よく見ているとガンの群れも北上して行くのが見られます。
出会う事が少し難しいのですが、出会った時の感動は何物にも代えられないくらいに大きなものでしょう。是非一度チャレンジしてください、チャレンジする価値は十分です。

支部報「カッコウ」2019年4月号より

海辺のカフカ ―カフカはチェコ語でニシコクマルガラスのことらしい―

日本野鳥の会札幌支部  関 純彦

村上春樹「海辺のカフカ」の主人公名は、フランツ・カフカからの借用であると共に、チェコ語でカラスを意味することが物語の重要なキーワードとなる。しかし、チェコではカラスのことを本当に「カフカ」と呼ぶのだろうか。ふと心配になった。

というのは、村上氏は鳥に対する興味や知識がほとんどないと思えるからだ。私の知る限り、氏が小説の中で鳥の種名を記載したことはほとんどない。「ねじまき鳥」に出てくる「泥棒かささぎ」は曲の名前だし、たまに鳥が登場しても「名前の知らない鳥」など素っ気無い記述が目立つ。

そこへいくと、村上氏の短編「中国行きのスロウ・ボート」を土台にして古川日出男氏が書き直した「二〇〇二年のスロウ・ボート」は素晴らしい。

―留鳥のセキレイ、カルガモ、ゴイサギ、カイツブリ、渡り鳥のホシハジロ、ハシビロガモ、オナガガモ、&c.。ただ残念ながら、僕が最多目撃数を誇ると感じた野鳥については、ふれられていない。カラスだ。 種類を細説するならばハシブトガラス―

一方、その元になった村上作品の該当場面ではどうか。

―五羽のにわとりが遅い朝食だか少し早い昼食だかを食べているところだった。そして煙草を吸いながら餌を食べているところをずっと眺めていた。にわとりたちはひどく忙しそうに餌箱をつついていた―

洋酒や音楽などの細かい薀蓄とは対照的に、ただの「にわとり」をぼうっと見つめるだけで、要するに鳥なんかどうでもいいようだ。

さて、チェコの村上文学翻訳者によると、「カフカは少し背が小さく色もちょっと違うが、カラスの一種ではあるのでチェコの読者に意味は伝わる」そうである。

「kavka」で画像検索すると、やはり小さめのカラスの画像が出てきた。この中に「Kavka obecná」という名前があり、最終的にチェコでカフカといえば学名Corvus monedula、つまりニシコクマルガラスであることが分かった。コクマルガラスは日本でも見るが、ニシコクマルガラスは珍しい。欧州では逆で、英名だとニシコクマルガラスが単にJackdaw、コクマルガラスはDaurian Jackdawと呼ぶようだ。

ちなみに、チェコ語でハシボソガラスはVrána obecnáであり、どうやら一般的なカラスのことはカフカではなくVrána(ヴラーナ)と呼ぶらしい。

残念ながらニシコクマルガラスは見たことがない。写真はコクマルガラスの淡色型である。

支部報「カッコウ」2019年3月号より

迷鳥との出会い

日本野鳥の会札幌支部  竹田芳範(本文及び撮影)

その鳥を初めて見たのは七月二十三日、東屯田遊水池付近の
発寒川でです。その前の週に河畔林で「空飛ぶ宝石」が枝に止まって魚を獲るシーンをたっぷり見ることが出来たので、二十三日はそれ目的で発寒川に出掛けました。でも、青い鳥には会えませんでした。その代わり、カワセミを探している最中に岸辺の草むらに潜んでいる鳥が目にとまりました。私でも見つけられるような特徴を持った鳥でした。一番の特徴は首から腹にかけてが白い羽毛で覆われている点でした。もしも羽毛が茶色や灰色だったら見逃していたと思います。この白色のお陰で、岸辺まで距離はありましたが、双眼鏡に鳥の姿を入れるのは難しくありませんでした。帰宅して図鑑のページをめくると、該当するのはシロハラクイナだけでした。バンとほぼ同程度の大きさだということもそのとき知りました。

この日から、雨の日以外は同じ場所に通っては、50メートル離れた岸辺にいるこの鳥の様子を見守りました。最後の観察となる八月二十六日までの約一ヶ月間、家を出発するとき「まだ渡去しないでいてくれよ」と願わずにいられなかったのは、道内で見られることが滅多にない鳥だからです。いくつかの図鑑には、近年分布を北に広げつつあると書かれていました。その証拠に、北区の百合が原公園では2016年に繁殖を観察した人がいたと聞きます。同じ年、伊達でも観察例があったそうです。

さて、毎回の観察中、シロハラクイナは置物のようで、ほとんど動きがありませんでしたが、水浴びシーンを二回見ることが出来ました。時間は計りませんでしたが、結構念入りに行っていました。それと、たまに岸辺を歩いたので、クイナ科の鳥らしいがっしりとした黄色い脚と長い足指を確認できました。

ワイルドライフというテレビ番組の八月二十日放送分は「奄美・沖縄 原始のウサギ・ヤマネコ」でした。私が画面にかじりついていると、センサーカメラが捉えたイリオモテヤマネコが
写し出されました。二~三分ほどのシーンの中に何とシロハラクイナも二羽登場し、カメラの前を早足で通り過ぎていきました。「こ、こういう動き見たかった」と呟いたのを覚えています。

八月二十七日以降は40分前後、対岸の広い範囲を探しましたが見つけることは出来ませんでした。結局、一ヶ月以上滞在したと言うことは、「来年も渡って来ますよ」というメッセージなのでしょうか?

支部報「カッコウ」2019年1,2月号より