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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

羊毛フェルト作家が見たサロベツの面白さ

羊毛フェルト作家 カムイモデルズ 槌田 賢

私は豊富町でカムイモデルズという屋号にてひょんな事から羊毛フェルト作家となり製作活動をしております。元来、身近な野鳥は「雀・カラス・鳩」位しか区別が出来ませんでしたが、野鳥作品を作るにあたって対象の鳥を観察する必要があり、デジカメを買って鳥見を始める事にしました。

当初、一人では鳥を発見する事さえ覚束なかったのですが、その道のプロとも言える方と同行する機会を得まして単独でもほぼ不自由無く鳥見が出来るようになりました。意識して見てみれば世界は鳥だらけ。現居住地では外出する事なく、部屋の窓からでもシマエナガ・ハシブトガラ・ベニマシコ・ニュウナイスズメなどなどと多様な鳥達を目にする環境で暮らしています。

豊富町では湯の杜ぽっけ様とサロベツ湿原センター様にて作品を販売させて頂いておりますが、後者での商品は基本的にサロベツに生息している生物限定です。特に鳥の販売商品は事前に試作を持参してプレゼンを行うのですが、ダメ出しされる事もしばしばありました。鳥には色合い・模様・くちばしの形状など鳥の種類によって再現すべき必須項目があったのです。確かに指摘された項目はその鳥たらしめる特徴で私の知識も増えて行きました。

現在サロベツ湿原センター様にて作品展示させて頂いている羊毛フェルト製の実物大シマアオジは、識者の方の監修で製作したもので、体長はもとより体重まで再現しております。さて、豊富町はサロベツという地域の中にありますが、この時期の関心事といえばやはり前述したシマアオジではないでしょうか。近年シマアオジの飛来数は、中国で食用として捕獲されている事が原因で減少の一途を辿っているようで、かつてサロベツ湿原センター木道上から容易に確認出来た個体は、一昨年を最後に発見されていないそうです。それでも広大なサロベツ湿原には今年も飛来しているようで、最近でも草刈りをしていた道路上から目撃した例もあるようですので、確率は低いですがその姿を目にする事も出来るかもしれません。

湿原センター売場での私の販売スペース

サロベツ湿原センターにて展示している羊毛フェルト製シマアオジ



シマアオジと出会えなくても、湿原センター近くのアスファルトで舗装された歩道を人間のようにトコトコと歩くツメナガセキレイを見る事があるのですが、その愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまいます。シマアオジと時を同じく、文字通りこの時期にサロベツ湿原に花を添えるエゾカンゾウですが、この3年間続いた花の当たり年も、今年は春先の霜が影響してかなり花の数は少なく思えます。しかし日本海側のオロロンラインと呼ばれる道道106号では、エゾカンゾウ・エゾスカシユリ・ハマナスやエゾニュウなどの花々は例年通りに咲いています。春になれば海岸線には多数の鳥達が子育てをしており、美しい花に止まるノビタキやホオアカなどのさえずりが海上にそびえる利尻山を臨む景色のBGMとして訪れる人々を楽しませてくれます。

オロロンラインから見た風景

サロベツには多種多様な動植物が暮らしており、訪れる時期によってその姿を変えながら私達を迎えてくれます。又、風景だけでなく豊富牛乳を使った美味しいスイーツを提供する店も多くあり、機会がございましたら是非とも五感を使ってこの「サロベツ」を体感していただければと思います。

自生している植物

自生している植物

サロベツの動植物や作品情報などを発信しております

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支部報「カッコウ」2023年 9・10月号より

大学での鳥の研究

北海道大学理学院 古巻翔平

皆様初めまして。今回自身の研究について書かせていただく機会をいただき投稿しております。
自分は現在北海道大学に在籍しているのですが、出身は東京で、北海道の大自然とはかけ離れたところで育ちました。しかし東京の街中にも少しは緑があり、小学生時代に通学路にいる鳥を見ながら登校していたことが鳥類に興味を持ったきっかけだったかもしれません。

高校時代に北海道に来た際、石狩川河口に広がる砂浜と海岸草原の景観、そこに生息する野鳥の多様さ、また札幌近郊の緑の多さに魅了され、こんな場所で鳥を見ながら生活できたらと思い北海道大学への進学を決めました。

大学では鳥類の生態、特にモズとアカモズの種間関係や繁殖生態について研究しています。モズとアカモズには、自分のなわばりから同種だけでなく、他種も追い出してなわばりを作る「種間なわばり制」という面白い生態があり、2種が一緒に生息する環境では、2種のなわばりが重複せずに混在する状態が見られます。

自分の研究では、2種の行動を直接観察して、いた位置を地図上に記録し、なわばりの分布を調査しました。行動観察調査は労力を要し、大変だったのですが、行動観察を通して2種の闘争行動などを観察でき、非常に面白い研究になりました。

自分が研究対象としているアカモズは皆様ご存じのとおり、急激に数が減っている希少な鳥です。北海道内でも数は少なく、保全に向けて様々な活動が行われています。

保全をするにあたって、個体数や繁殖成功率、どれくらい次の年に帰ってくるのかを調べることは、アカモズの現状や将来を予測する上で非常に重要です。これらの情報は1990年代には調べられているものの、近年の状況は詳しくわかっていません。

そこで現在道内でアカモズの繁殖調査や標識調査を行っています。これらの調査は極力繁殖を邪魔しないように配慮して行っているのですが、かなり気を遣う調査なので毎回緊張しながら調査をしています。ただ無事に繁殖が成功したり、標識した個体が帰ってきているのを観察できると嬉しい気持ちになります。

標識作業

個体が識別できるように色つきの足環を装着する標識作業を行っています


アカモズの保護はまだ始まったばかりで、危機的な状態は続いています。今後もアカモズを見ることができるように、保全のためのデータを集めていくつもりです。最後にお願いにはなるのですが、アカモズを観察する際には、繁殖の邪魔にならないようにマナーに注意して見守っていただければと思います。

※捕獲・標識作業は鳥類標識調査員の資格を取得したうえで、環境省・山階鳥類研究所の許可の下、安全な方法で行っています。

支部報「カッコウ」2023年 7・8月号より

道央地域におけるタンチョウの今後

一般社団法人タンチョウ研究所 正富 欣之

タンチョウといえば、道東にいる鳥で道央地域ではめったに見られない・・・というのは10年以上前の話で、最近では2020年から⻑沼町の舞鶴遊⽔地で巣を造り、ヒナを育てています。ご存知の⽅も多くいらっしゃると思いますが、ほぼ道東に限定されていた分布は、道北、そして道央へと拡がってきています。今後の生息地拡大および分散を考えるうえで、これまで以上にきちんとした調査・研究が重要となります。

タンチョウ研究所では、タンチョウの生息状況を把握するために繁殖状況および越冬状況を調査しています。道央地域における繁殖状況については、巣の数だけではなく、卵やヒナ、そして幼鳥(飛べるようになったヒナ)のそれぞれの数を調査してます。

当然のこととして、調査に必要な時間と労力が増えますが、精度の高い結果が得られます。すべての繁殖つがいというわけにはいきませんが、可能な限りヒナの成鳥段階も考慮した調査を実施しています。

越冬期になると、多くのタンチョウは不凍河川がある場所に移動します。凍らない川は、ねぐらや採餌環境として重要です。道央地域で繁殖しているつがいは、冬になると場所を移動しますが同じ道央に留まっていることが調査で明らかになってきました。このような調査は、多くの個人・団体からのご協力を賜り、実施しています。

上記の調査とも関連することですが、タンチョウの行動や生態に関する調査・研究も行っています。具体例として、風切羽の換羽について調べています。タンチョウは両翼の初列と次列の風切羽とも同日ないし数日内に一⻫に抜け落ちるため、再生するまで飛べなくなります。多くの個体では1〜2年おきにこれらの風切羽の換羽が起こると考えられています。また、最初(亜成鳥)の換羽年齢については3齢という説もありましたが、2齢で起こる可能性がかなり高いということを明らかにしました。年齢を判別することで、将来的な営巣(繁殖)の可能性などを推測できるようになります。

タンチョウの巣(風力発電施設建設計画がある浜厚真の湿地、2021年5月)

タンチョウの巣(風力発電施設建設計画がある浜厚真の湿地、2021年5月)


今後も道央地域の個体数が増加するためには、繁殖可能な生息環境の保全が重要になると考えています。タンチョウが飛来して滞在する場所には、営巣に適した環境が残されているかもしれません。移動や滞在の目撃情報は保全策を検討するうえで、非常に重要なものです。道央地域でタンチョウを目撃された際には、当研究所にご一報いただきますようお願い申し上げます。

支部報「カッコウ」2023年 5・6月号より

西岡水源池の遷移

公益財団法人札幌市公園緑化協会/西岡公園管理事務所 山口貴司

札幌市豊平区の南端に位置する西岡水源池。ここは、110年以上前に月寒川を堰き止めて作られた所謂ダム湖です。かつては開拓使の官林であった森林になぜ湖を作ったのかというと、陸軍第7師団が創設された当時、水不足に悩む地域でもあった月寒村では兵舎までの水道が必要になり、水源池を造ることとなったのです。その後、農業用水にも配分されるようになり、地域の水源として必要不可欠な存在となった西岡水源池ですが、実は長い年月をかけて池のまわりの環境もゆっくりと変化してきました。
池の上流部には、川の堆積物によって湿原が広がり、そこでは一面にヨシが生え、ミズバショウやツリフネソウなどの湿性植物を多く観察できるようになりました。多様な水環境に合わせるように、水環境の指標生物ともいえるトンボをはじめとした様々な昆虫を観察できるようになり、更に上位の捕食者となる野鳥も多くの種を確認できるようになりました。

そんな湿原ですが、20~30年程前から枯れた植物の堆積や木道の影響による川の直線化によるものと予想される、湿原の乾燥化が進んでいることが分かってきました。湿原はいずれ自然の遷移によって乾燥化していくと言われますが、日本野鳥の会札幌支部をはじめとした西岡公園を楽しむ様々な方と「人的要因による乾燥化を避けられないか」「木道の在り方はどうするべきか」など話し合う場を設け続けてきた結果、公園施設である木道を架け替える時期を迎え、これまでの話し合いを元に、新たな木道の架け替え工事を実施出来たのです。

令和2年春に完成した木道は、人が立ち入らないエリアを設ける散策ルートにしたことで、湿原の全域を歩いて回れるような形ではなくなりましたが、直線化していた川に覆いかぶさるように湿生植物が繁茂するようになるなど、今後の変化が楽しみなところでもあります。

これからの季節の西岡公園は、3月下旬にミズバショウが見えはじめ、4月に入るとエゾアカガエルの鳴き声が聞こえるようになります。水源池一面を覆っていた氷が融け始めると、マガモやカイツブリ、カワアイサなどの水鳥たちがやってきて、もう少しで来るであろう夏鳥たちの到来も予感させてくれます。

西岡水源池を中心に据える西岡公園は、ひとつの公園の中に川や池、湿原など様々な水環境があることで、多くの動植物に出会えます。その一方で、水環境の変化や、同時に進むであろう動植物の変化もきっとあるでしょう。ひとときの自然を楽しんでいただくのはもちろん、ゆったりとした自然の遷移も長い目で楽しんでいただけると嬉しいです。ご来園の際には、是非管理事務所にもお立ち寄りください。

支部報「カッコウ」2023年3・4月号より

札幌市円山動物園で野生のオシドリが子育て、巣立ち

円山動物園ガイドボランティア/円山動物園の森ボランティア 山川 泰弘

すぐ東隣りに天然記念物「円山」原生林、西隣りに「ユースの森」があり、園内にも森やニレ、ミズナラ、ドイツトウヒ、アサダ、ヤチダモなどの大木を持つ「札幌市円山動物園」には、様々な野鳥が姿を見せてくれます。

もちろん一般の入園者は、鳥といえば昼食弁当やオヤツを横取りしようと狙っているハシブトガラスに気を取られていて、ほかの野鳥などには気がつかない人が殆どです。しかしアカゲラやシジュウカラ、ヤマガラなどは普通にみられますし、彼らが展示獣舎のすぐ横の立木に巣を作って子育てしている事は稀ではありません。

野鳥の子育てといえば、覚えている方も多いと思いますが、なんとクマゲラが動物園の中央にある幅20m長さ130mほどのグリーンベルトの一番奥にあるオウシュウアカマツに巣を作り、立派に子育てしたことがありました。確か平成27年のことだったと思います。日刊紙にも載ったので、子育てを始めてからは連日、沢山のカメラマンが押しかけ、動物園ではクマゲラの子育ての障害にならないよう、かつ一般の入園者の邪魔にならないよう、少し離れた場所にロープで囲ったカメラマン席を設けて対応しました。クマゲラは体も大きいせいか、大勢の人が近くをぞろぞろ歩いていても平気なようでした。本当に、巣を作ったオウシュウアカマツのすぐ下は、一般の入園者・老若男女が毎日行き交うメインストリートだったのです。その後、無事に巣立ちが完了し、また平穏な動物園に戻りました。

巣立ち後、巣穴は他の野鳥たちに利用されていたようですが、驚くことに3年後の平成30年、オシドリがクマゲラの作った巣穴で子育てを始めました。実は、オシドリが子育てをしていることは8月12日の巣立ちまで動物園職員を含め誰も気付いておりませんでした。偶然にもその日、私はガイドボランティアとして登園しておりました。10時半すぎ前述のグリーンベルトの脇を通ったとき、ハシブトガラスたちがいつもとは違う、妙に興奮した動きをしているのに気づき、カラスの視線の先に目をやりました。なんとそこにはグリーンベルトの芝生を引越し行進中のオシドリ母子の姿がありました。ヒナは4羽です。母鳥はカラスを警戒してヒナたちを植え込みに隠し、安全を確認したら次の植え込みまで皆で大急ぎで移動するなど、用心深く移動してました。驚いた私は、取りあえずカラスの動きを制止しながら、そして入園者がオシドリ母子の行進を邪魔しないよう声をかけながら、付き添って歩くことにしました。入園者らは思わぬ珍しい光景に大喜び。手伝ってくれる方もいました。母子の目的地は予想がつきました。動物園と円山の間にある円山川で、一部は動物園内の森の中を流れています。しかも動物園の森には彼らの休憩にちょうど良いビオトープの池もあります。母鳥は、このことを知っているのでしょう。まさに予想した方向へ向かって行きます。途中、何度も障害物に出会って行きつ戻りつしましたが、なんとか上手く誘導して無事にビオトープの池岸の藪に入っていく彼らを見届けて、肩の荷を下ろしました。ほぼ1時間半の出来事でした。その後、円山公園の池に母子が姿を見せてくれたことを人づてに聞いて安心しました。

オシドリは翌年も同じ巣穴で繁殖し、今度は動物園の職員さんが巣立ちを確認したという事です。

このように円山動物園は自然環境に恵まれておりますので、10年ほどの間に野鳥には疎い私が判別出来ただけでも、カラ類はもちろん、マヒワ、カワラヒワ、ウソ、ハギマシコ、ハクセキレイ、キセキレイ、オオルリ、ヤブサメ、カワガラス、コゲラ、ヤマゲラ、マガモ、カルガモ、ウグイス、シマエナガ、ヒヨドリ、ミヤマカケス、ムクドリ、ツグミ等々がみられました。これからも円山動物園でガイドボランティアをしながら、バードウォッチングを楽しみたいと思います。

支部報「カッコウ」2023年 1・2月号より

シマフクロウとの32年

北海学園大学工学部 早矢仕 有子

この春、勤務する大学の出版会から「シマフクロウ 家族の物語」を上梓しました。シマフクロウ一家の生活を観察者の視点から「つれづれなるままに」書き連ねたもので、堅い学術書ではありません。大学院生の頃はフィールドでの些細な出来事まで細々と野帳に書き残していたので記憶を辿ることも容易な上に、遠い過去は記憶の中で美化されるためか、思い出を綴るのは楽しい作業でした。当時は大学院で必要なデータを集めることに必死で精神的にも経済的にも余裕は無かったのですが、振り返るといつもシマフクロウのそばで過ごしたあの日々は、贅沢で幸せだったと懐かしく恋しいばかりです。何せ、シマフクロウは不思議な魅力に満ち、何年見ていても飽きることがありません。さらに私が研究者としての勤勉さや洞察力に欠けるためか、いつまでたってもわからないことばかりで、終点の見えない列車に乗り続けているようなものです。

シマフクロウが長寿であることも、個体への愛着を増幅させ、目が離せなくなる大きな要因でした。研究を始めた時、満1才で両親の扶養家族だった娘はその後32才まで生き、4羽のオスを伴侶とし、何度も何度も子を育てました。繁殖個体1羽の生涯を見届けるのに30年以上かかるのですから、シマフクロウの生活史を追うのは途方もない長い時間が必要なのです。

シマフクロウ

シマフクロウ


しかし、年月を経て私の立場も変わりシマフクロウと過ごす時間が減り、さらにその貴重な時間も様々な外力で妨げられることが多くなりました。著書の中でもシマフクロウの営利利用の実態を非難しましたが、野生動物との間に必要な距離感覚を持たないまま、ズカズカ生息地を荒らす人たちとは対話の言葉も見つかりません。ただ、諦めずに絶滅危惧種と人の付き合い方を突き詰めて考えることも、シマフクロウから私に課された大きな宿題と思うようにしています。

支部報「カッコウ」2022年 11・12月号より

ウトナイ湖の秋のにぎわいと新体制のご紹介

(公財)日本野鳥の会自然保護室 苫小牧グループ 希少鳥類担当 瀧本 宏昭

左から稲葉、松本チーフ、池淵、瀧本、坂田、和歌月

左から稲葉、松本チーフ、池淵、瀧本、坂田、和歌月

ウトナイ湖は苫小牧市東部にあり、高速道路の苫小牧東インターから車で約10分、新千歳空港から車で20分、国際港の苫小牧東港・⻄港から車で25分という場所に位置しています。そんな、人と物流の要衝の近くにある湖は、野鳥の渡りの重要な中継地でもあり、ラムサール条約に登録されています。条約の正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」です。水鳥が多い時には、マガンを中心に数万羽が湖面で羽を休めることもあります。また、渡りの時期以外には、春から夏の繁殖期に、オジロワシ、チュウヒ、タンチョウなどの絶滅危惧種や、ノビタキ、ノゴマなどの草地の野鳥、クロツグミやキビタキなど森林の野鳥が利用します。また、秋から冬の間はオオワシも見られます。これからの9,10月は水鳥たちの秋の渡りでにぎわう時期です。9月上旬からカイツブリの仲間の群れが見られ始め、中旬から下旬にはオオヒシクイ、マガモ、マガン、9月下旬から10月上旬にはコハクチョウ、オオハクチョウの順で秋季初確認がされていきます。10月頃はタイミングが合えば、数千羽の水鳥の群れが見られることもあります。水鳥は比較的にじっくり観察できるので、バードウォッチング初心者向けです。札幌からアクセスしやすい場所ですので、ぜひお越しください。

さて、このように貴重な自然環境が残されているウトナイ湖ですが、前述の通り人と物流の要衝の近くでもあるので、近隣では開発が進んでいます。絶滅危惧種が生息しながらも自然環境を守るための法の網掛けが成されていない場所や、流域や動物の行き来などでウトナイ湖と関りが深い場所も開発される恐れがあります。そのため、(公財)日本野鳥の会では、近隣の自然を守る活動も行なっています。現在、苫小牧東部の海岸線近くにある弁天沼と呼ばれる場所周辺のラムサール条約登録を目指している他、浜厚真の風力発電事業に中止の要望書を提出するなどの活動を進めています。

2022年3月早朝のマガンのねぐら立ち

2022年3月早朝のマガンのねぐら立ち

そんな活動を進める中で、2022年度からウトナイ湖の日本野鳥の会レンジャーの体制が変わり「苫小牧グループ」が新設されました。この「苫小牧グループ」は、これまでネイチャーセンターと野生鳥獣保護センターに勤めるレンジャーたちと、シマフクロウやタンチョウの保護事業を担ってきた保護区グループが統合して作られました。ウトナイ湖だけでなく勇払原野の保全、そして道内のタンチョウやシマフクロウの保護事業と活動をさらに広げていきます。皆さま、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。

支部報「カッコウ」2022年 9・10月号より

さっぽろ生き物さがしの取り組み

さっぽろ自然調査館・さっぽろ生き物さがし事務局 渡辺 修

「さっぽろ生き物さがしプロジェクト」は、札幌市が2015年から毎年開催している市民参加型調査です。

さっぽろ生き物さがしプロジェクト

夏休みを中心とした数ヵ月の期間実施し、登録した市民が市内で見つけた動植物の記録を報告するものです。対象は、札幌市内の環境を指標するような動植物を含む15グループの約90種で、毎年対象を適宜変えながら実施しています(図1)。

図1. さっぽろ生き物さがしの概要

図1. さっぽろ生き物さがしの概要
※対象グループは、昆虫(マルハナバチ・トンボ・チョウ・クワガタ・バッタ・セミ)、両生類、野鳥(キツツキ・カモ・草原の鳥)、植物(木の実・草の実・春の花・初夏の花・夏秋の花)

主な参加者は、チラシを全校生徒に配布している関係で、小学生とその家族が中心です。参加者は100~300チーム程度でしたが、新型コロナの感染拡大の影響で他の行事が軒並み中止になった2020年以降参加者が急増し、2021年は1258チーム5700名もの申し込みがありました。生き物さがしは家族等の単位で各自実施し、データのやり取りもネット主体なので、感染対策のための自粛の影響を受けずに済みました。

申込数が増えたのは、2019年から参加者に無料配布している「生き物ミニ図鑑」の効果もあったかもしれません。この小冊子は調査対象など140種ほどの動植物を写真と見分けイラストで紹介しており、かなり好評です。

一般市民が担い手となる調査は、野鳥の会の取り組みでも多くなされていると思いますが、この調査は小学生など、よりアマチュアな層が取り組むことにより、市民調査の特色が鮮明になっています。

研究者や愛好家が対象としないような普通の種のデータが集められること、市内の広い範囲でデータが得られ環境の広域的な評価に使えること、身近な自然を理解するきっかけになることなどです。この調査によって、マルハナバチやトンボに詳しくなった市民がひそかに(!)増えています。

参加者が小学生家族が多いため、対象で人気があるのは昆虫たちです。野鳥の対象は、対象期間の夏でも見られ、見分けの楽しみもあるキツツキ類とカモ類(夏鳥)、草原の鳥(声に特徴のあるカッコウ・ヒバリ・オオジシギを選定)としましたが、あまりデータが集められていませんでした。しかし、ここ2年は参加者が増えたので情報が集まり、分布図も充実してきました。図2はキツツキとカモのなかまの分布図ですが、皆さんのイメージと一致するでしょうか。

図2. キツツキとカモの布図

図2. キツツキの仲間(2021 年調査)とカモの仲間(2020 年調査)の分布図(一つの区画は3 次メッシュ(約1km 四方))

今年も生き物さがしがスタートしており、参加者を募集しています。これを読まれた方もぜひ参加していただければ幸いです(申し込みは事務局まで)。野鳥の観察適期は過ぎてしまったかもしれないですが、昆虫や花の観察にもチャレンジしていただければと思います。

さっぽろ生き物さがし2022の概要

開催期間
2022年5月20日(金)~9月30日(金)
対象とする生き物
マルハナバチ・トンボ・チョウ・草原の鳥・初夏の花・夏秋の花
公式サイト
さっぽろ生き物さがし2022~身近な生き物を見つけよう~
事務局
さっぽろ自然調査館内
sapporo-ikimono@cho.co.jp 011-892-5306
支部報「カッコウ」2022年 7・8月号より

ふぉれすと鉱山に、にぎやかな春が来た!

NPO法人登別自然活動支援組織モモンガくらぶ/
登別市ネイチャーセンターふぉれすと鉱山
遠藤 潤

みなさん、登別にはお越しになったことはありますか?「登別温泉に行ったことある!」という方が多いでしょうか。その登別温泉より西側の山間に、登別市ネイチャーセンターふぉれすと鉱山があります。
旧鉱山小中学校校舎と跡地を活用した社会教育施設として、ふぉれすと鉱山は、2002年4月にオープンしました。2007年より、私たちNPO法人モモンガくらぶが指定管理者となり、人と人、人と自然のふれあいを促進し、人づくり、地域づくりへとつなげていくことをコンセプトに、鉱山地区をフィールドとする自然体験の機会を提供し、0歳からアクティブシニアまで、自然観察など身近な自然を題材にした活動から、リバートレッキングなどアクティブな活動まで、四季折々、様々な活動を展開しています。

ふぉれすと鉱山は、幌別川の上流部、森と川に囲まれた鉱山地区(鉱山町)にあります。鉱山町とは、その名の通り、幌別鉱山で栄えた町があったところ。幌別鉱山は、明治末期、金銀銅の採掘から始まり、やがて山向こうから硫黄を採掘、その後それが主流となり、昭和初期には硫黄の生産が日本一になりました。3分の2世紀に及んだ幌別鉱山は、昭和48年に閉山。今では、その時代の歴史の遺構が森の中にひっそりと佇んでいます。

ふぉれすと鉱山周辺の5月のはじまりは、にぎやかです。キタコブシやエゾヤマザクラが咲き、オオルリやキビタキなど夏鳥たちが渡ってくる季節。渡ってきたばかりの頃は、オス同士が2羽3羽と一緒に行動している姿もみられます。早朝森を歩くと、クロツグミ、エゾムシクイ、センダイムシクイ、アオジ、イカル、そして、水辺ではミソサザイ、コマドリたちの美しいさえずりが響き、夕暮れにはアカハラやコルリ、夜になるとトラツグミの鳴き声が雪どけの川の音とともに、静かな森に響き渡ります。こうして、渡り鳥たちが到着した順にさえずりの種類も増えていきます。

春という季節は、長い冬を越えてきた生きものたちにとって、待ち遠しかった季節。ふぉれすと鉱山で、私がいつも感じることは、自然や生きものたちが季節を教えてくれること。ぜひ機会があれば、森と川に包まれた季節を感じにふぉれすと鉱山にお越しください。

支部報「カッコウ」2022年 5・6月号より

渡り鳥には磁気が見えている?

日本野鳥の会札幌支部会員  関 純彦

 昨年のネイチャー誌で、ヨーロッパコマドリの目に存在する「クリプトクロム4」というタンパク質が地球の磁場に反応するという研究が目にとまりました(1)。同号の総説(2)によると、鳥は天文情報や地形などに加え「自らの磁気コンパス」で方角を決めていると考えられてきました。しかし、どの器官がどういう仕組で感知するのか長らく謎でした。

 古くは、マグネタイドという鉄分が体にあり、それに磁力が加わると神経に伝わると考えられました。磁力とは「磁石に鉄がくっつく力」と考えている私たちには理解しやすい仮説です。しかし、マグネタイドは鳩の嘴で発見されてはいるものの、実際に働いている証拠はありません。

 そもそも地球の磁場は約0.5ガウス、磁石は1000ガウス以上なので鉄を動かす力よりずっと微力です。そこで、もっと小さな素粒子レベルの仕組みが提唱されました。

 極めて簡略化した図を作成してみました。「クリプトクロム4」は鳥類、魚類、両生類の網膜で見つかっています(人間には無いようです)。クリプトクロムに光が当たると、電子が1個だけ移動してきますが、軌道に1個しかない不対電子は移動しやすく、この不安定な状態を「ラジカル」と呼びます。ラジカルは別のラジカルと互いに電子を移動させ合い、ラジカル対を成します。ラジカル対は電子の自転方向によって、安定状態に戻りやすい一重項と、ラジカル状態を維持する三重項に分かれますが、磁場がこの比率に影響を与える結果、方角の違いによってクリプトクロムのラジカル状態も変化するはず、という仮説です。

 この「ラジカル対機構説」は1978年に提唱されましたが、弱い地球の磁場上で微妙な反応を実験的に証明するのは困難で、人工的に強力な磁場を作ったり、磁気に敏感な物質を代用するなど工夫をしても、間接的な証拠しか得られてなかったのです。しかし今回、コマドリの網膜に存在する「クリプトクロム4」が地球の磁場に十分に反応することを、世界で初めて直接証明したというわけです。

 どうやら渡り鳥は網膜で磁気を感知し、方角を判断しているようです。つまり、渡り鳥には「南北の違いが実際に見えている」と考えられます。いったいどんなふうに見えているのでしょうか? 明るさが違ったり、あるいは色が変わったりして見えているのでしょうか? 今後の研究の発展に期待しています。

参考文献 

1) Xu J. et al. Nature 464, 1140-1142, 2021
2) Warrant EJ. Nature 464, 497-498, 2021

支部報「カッコウ」2022年 3,4月号より