シマフクロウ家族の物語
ブックスレビュー
一読してこの表題には感心した。深い森の縁を流れる川の音とシマフクロウの鳴きかわす声が聞こえてきそうな気さえした。「家族」、「物語」。これだけで本書が読者に伝えたい目的の一半が感じられるのではないだろうか。シマフクロウがたちあらわれてくるような気さえする。
本書では冒頭でシマフクロウの解説および本種の保護鳥としての現況にも触れている。圧巻は著者とシマフクロウとの強く刻まれた[理屈抜きに素晴らしい]という著者の表現にこちらはそう思う以外にないのである。初めての出会いを著者はこう記している。「湖畔のキャンプ場でこの鳥の吠え声を聞いたときの驚きは、今でも記憶が増幅したまま留まっている」というからそうとうのものだったことがわかる。
著者が研究の対象としたシマフクロウの家族は1987年から2019年にかけての歴代数十羽という非常に多数のシマフクロウであり、今までも、またこれからもこのような研究は現われないのではないかと思われる。第一章の見開き頁で対象となった一家の家系図が出ているが、研究とはいえよくぞここまでこの一家のシマフクロウを観察し続けたものだと驚き敬服した。
本書で早矢仕有子さんが私たちに伝えたいメッセージは、第六章の終節にあるように、「シマフクロウの存在を尊重する気持ちを持ちなさい」というあたりまえだが、実に大切な伝言である。既に第一章に書き記された内容に驚き幻滅するのもこのことだ。「我々はシマフクロウの餌資源をへらしてきた。十勝川上流に位置するこの生息地まで、河口から遡っていくと、大きいものだけでも十基を上回る数のダムを通過する。内陸部に暮らす個体にはシマフクロウ本来の主食である遡河魚の恩恵を受ける機会は生涯無い」。こうした現状を見続けてきた早矢仕さんにはつらいことであったにちがいない。