ミヤマガラスに思うこと
ミヤマガラスといえば、鹿児島県の出水干拓に冬季多数飛来するナベヅルやマナヅルとともに農地で観察される珍鳥と思っていた。91年1月(平3)、私は初めて当地を訪れ、出水でツル保護監視員をされていた故又野末春さんの民宿に泊まることができ、農業被害と野鳥の関わりなどの話を聞くと同時に、軽トラックで数千羽のツルの餌まき体験をした。これらは業務に携わった宮島沼鳥獣保護区設定やラムサール登録湿地保全において大変有意義なものになったことを懐かしく思い出される。ミヤマガラスは、この餌まき作業中でも農地脇の電線に数百の群れで列をなしとまったり、飛行しては田んぼに降りたりを繰り返していて、この北海道の光景にはない少し小さ目で人を寄せ付けないそのカラスに夢中で双眼鏡を向けていた。
私は94年4月、礼文島で初めての鳥類標識調査を行った。この時にミヤマガラスを北海道で初確認した。その数日前に隣の利尻島で確認されていることを知ってはいたが、まさか礼文島でも直ぐに遭遇できるとは驚きの何ものでもなかった。確認は島の北部にある久種湖で、8羽の小群が最北という牧場で牛と戯れるように採餌行動をとっており、思わず出水で見た数百羽という群れが北海道でも見られるのだろうかと考えてしまった。
その後、本種が国内はもとより道内各地で観察が相次ぎ、私の記録でも04年から05年にかけての大沼、鵡川、根室、そして礼文島をはじめとして、昨今まで多数確認している。20数年前まで珍しかったミヤマガラスは、今北海道では冬季とその前後に比較的普通に、しかも数羽ではなく大群での観察も珍しくはなく、近年は我が家近くにある酪農学園大学(江別市)の農地までに出現するようになった。私のミヤマガラスという鳥のイメージは大きく変わってしまったのだ。
ミヤマガラス分布調査についてはバードリサーチ(東京)で、渡りのルートなどを探るなどのプロジェクト調査が進められていてよくまとめられている。これによると北海道の最初の記録は88年で、各地で観察されるようになったのは、利尻島や礼文島の記録の94年頃からとなっている。今後、「なぜ本種が来るようになったのか」も含めて、その推移や解明に期待している。
一方、本件同様に道内ではダイサギやコサギなどの白サギについても、以前よりずいぶんと目に付くと思いつつ、これら種についてもまだ分かっていないことが多いので注目種といえよう。また、いい悪いは別にして、越冬組とは言えないくらいまでに分布拡大をみせるカワウやカササギの勢力についても気になっている。
[参考資料]
- バードリサーチ.
http://www.bird-research.jp/1_katsudo/index_miyamagarasu.html - 小杉和樹.1994.利尻島におけるミヤマガラス Corbus frugilegus の記録.利尻研究、(14): 5-6
- 富川徹・小畑淳毅・福岡将之.1994.礼文島における春季(1994)の鳥類相.利尻研究、(14): 11-16