姫路の森から
いまから30年近く前になりますが、私は、そのころ札幌支部の事務局があった野生生物情報センターでアルバイトをさせてもらっていました。このたびは当時お世話になった住友さんのお招きに与り、参上しました。
現在、私は姫路市自然観察の森に勤務しています。姫路市は兵庫県南西部に位置する人口53万の中核市。自然観察の森とは、このような都市の近郊に残る身近な自然をフィールドに自然保護教育を推進するため、環境庁(当時)のモデル事業で全国10市町につくられた施設で、このうち横浜市、豊田市、姫路市の施設運営に当会が携わっています。
さて、姫路といえば、国宝でもあり世界遺産にも登録されている姫路城ですね。残念ながら現在は平成の大修理中。再来年まで見ることはできませんが、確かに一見の価値はあると、城や歴史にそれほど興味のない私でも思います。ここではこの天下の名城にひっかけて自然観察の森で見られる特色ある生き物を二つ紹介したいと思います。
姫路城は別名白鷺城とも呼ばれます。そう呼ばれる理由は、白漆喰で塗られたその城壁の美しさから、昔シラサギが多く棲んでいたから、など諸説ありますが、姫路市ではこの名にちなんで市鳥をシラサギに、市花をサギソウに選定しています。サギソウは湿原に生育するランの仲間です。北海道には自生していないので馴染みがないかもしれませんが、夏にこの名がぴったりの純白の花を咲かせます。生育地の消失や乱採取により近年数が減少し、兵庫県の絶滅危惧種の一つになっています。自然観察の森には小規模ながらサギソウが自生する湿地があり、8月下旬には数百株の花を観賞することができます。
市鳥、市花、市木は多くの市や町で選定さてれていますね。姫路市にはさらに市蝶というのがあり、ジャコウアゲハがこれに選ばれています。その選定理由は、江戸時代に姫路城の城主だった池田氏の家紋がアゲハチョウで、お城の多くの瓦紋にこの家紋が使われていることと、さらに、当地には播州皿屋敷伝説なるものがあり、ジャコウアゲハのさなぎは城内の井戸に身を投げた女中お菊の化身だとされ、昔、お菊虫として人々に知られていた経緯があるからです。こんな伝説を生んださなぎの異形さのほか、幼虫はウマノスズクサという有毒植物を食草として身を守ることや、その名のとおり成虫は翅に香りをもつことなど話題性に富んだジャコウアゲハを自然観察の森では開設当初から飼育展示しています。
来年のNHK大河ドラマ「黒田官兵衛」は姫路が舞台。姫路観光に来られた際はぜひこちらにもお立ち寄りください。