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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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水草ウォッチャー、鳥と遭遇す

札幌市博物館活動センター 学芸員 山崎真実
ヒシ群落_茨戸川

ヒシ群落_茨戸川

札幌市モエレ沼公園、近代的に整備された公園を楽しむ人々の傍らに沼が広がっている。釣り人以外にそこに沼があることを省みる人は少ない。しかし、岸辺にヨシやマコモが生い茂り、水面も水草でビッシリ覆われている沼が大好きな生き物もいる。それは、水鳥、水生昆虫、藻類・・・そして、(かなり少数派だが)水草ウォッチャーである。

私の場合、水草調査では片手に高枝切りばさみを持ち、胴付き長靴をはいて徒歩で水草の生えている地点に近づくことが多い。時には立ちはだかるヨシの壁を突破していく。行く先には先客がいて、私がガサガサと大きな音を立てるのでどうしても驚かせてしまう。先客とは、一斉に飛び立つカモ類、一声鳴いて飛び去るオオヨシキリなどである。水草のフィールド調査は鳥たちの生息域に入っていくことでもあるのだ、と気付かせてくれたのは鳥類の研究者だった。

時には、鳥がいたであろう痕跡を目撃することもある。ヨシ群落と河畔林が発達した湖岸近くのコンクリート上に、猛禽類が魚を食べたのか骨が散乱していたり、ペリットが落ちていたりした。見つけたペリットは博物館活動の教材として持ちかえり、内容物の骨に関しては他の学芸員に同定してもらっている。また、ヨシやガマの間に“空き巣”となったカイツブリの巣を見つけたこともある。巧みに組まれた浮巣の構造に感心すると同時に、図鑑や話で見聞きしていた物に実際に遭遇して、水草が他の動物に利用されていることを納得できた。

鳥と水草の主な接点は、巣材やエサとして水草を直接利用することだろう。そのため、偶然に水草が鳥に運ばれるチャンスも生まれる。水草のタネが硬く小さいことや、植物体の切れ端から根を出し新たな株に成長できるという水草側の特徴もうまく働き、タネは鳥の胃腸で破壊されずに排泄され、水草の切れ端は水鳥の体にくっついて移動する。そのため、水草には世界をまたにかけて分布する種類が多い。しかし、タネや植物体が水鳥に運ばれているということを科学的に立証するのは難しい。

子供の頃、川辺の草陰から大きな灰色の鳥が飛び立ち、頭上をゆっくりと飛んで行った。ほんの一瞬、いつもの散歩道が別世界になったような不思議な感覚、あれはツルだったのだ、とずっと思っていた。大人になってからアオサギという名前を知り、なんだか自分の幻想が崩れたようでがっかりしたが、遭遇した時の緊張感にも似た感覚は今も時々よみがえる。研究者は最小限の時間と労力で野外調査の目的を済ませればよいのかもしれない。けれど、野外で自分の感覚を研ぎ澄ますことも大切ではないだろうか。博物館活動を通しても野外で本物を見て感じて観察することの醍醐味を伝えていけたら、と思っている。

支部報「カッコウ」2013年4月号より