*

Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

Home

愛(かな)よ愛よシロハラクイナ

音楽家 林田 健司

僕が初めて彼に出逢ったのは雨上がりの石垣島。夕陽を追いかけてやって来た西海岸近くサトウキビ畑に挟まれた小径を歩いていた時彼は突拍子もなく、それは手品師がシルクハットから鳩を出すようにポンッと目の前に現れた。一瞬怯んだ次の瞬間その彼の愛らしいフォルムに目を奪われ立ち止まってしまった。どちらかと言うと鳥類が苦手な僕だが、彼の姿カタチと立ち居振る舞いにすっかり一目惚れしてしまったと言うわけだ。

彼は右側のサトウキビ畑から左側のサトウキビ畑へ移動するのに夢中で、ここが車の通る道だから気を抜いたら一発で殺られるということを知ってか知らぬかは定かではないがとにかく一心不乱に目的地を目指して左右の確認や道路を縦断する時の猫のようにキョロキョロと周りを見てゆっくりと、それでいて警戒心を決っして忘れないというような動きとは正反対でただ、ただ一目散に駆け抜けて行くのだ。僕はもう堪らなくなり思わずその様子にニッコリとした。それからと言うもの僕は島を車で走る時には彼等の姿を常に探し、尚且つ万全の注意を払っているのだ。

彼等の余りにも真っ直ぐな生き方が災いを呼び、道端で息絶えている姿をたくさん目にすることになったからだ。

観光で来たドライバーにとって信号の少ないこの島はさぞや気持ちのいいドライブとなることだろう。まさか飛ばないでわざわざ道を渡る鳥がいるなんて思わないモンね。石垣島の天然記念物に指定されていない彼等は、「だからねぇ~」そんなにみんなから大事にされないかっ。哀しい姿はよく見かけるけどねっ。それは結構見慣れた風景だしっ。「だからねっ。」でも僕にとって彼等は愛すべき存在なのだ!だからあぁ少しでも彼等の事を知ってもらえさえすればいい。島に来た時には道の端っこにも注意して、都会にはない生きものの暮らしにも目を向けて、綺麗な海や美味しいものだけでなく命(ぬち)ぐすいの島にある全ての豊かさも旅の思い出として持ち帰ってさえくれたらいい。

現在、島に住まわせて頂いている僕ができる感謝の思いのひとつとしても、まだ石垣島の事も「ヤンバルクイナは知ってるけどシロハクイナを知らないな」って人たちにも伝えたい事があるのでまずは僕がこのTシャツを着て活動する事で彼等に興味を持ってもらうことから始めてみよう。

散歩の途中、海を目指して車を走らせている時、僕はいつも願うのだどうか彼等に出会えますように。愛よ愛よ…シロハラクイナ。

シロハラクイナ

支部報「カッコウ」2019年7月号より