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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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離島の鳥たちとともに

公益財団法人日本野鳥の会 保全プロジェクト推進室 手嶋洋子

2015年春、8年ほど勤務した根室市春国岱原生野鳥公園から伊豆諸島にフィールドが変わりました。日本で最も寒い地域と言われる根室からサンゴが分布するような温暖な海に囲まれた地域へ異動し、湿原、針葉樹の森、高山植物など寒冷地ならではの風景に慣れ親しんだ目には、濃い緑の常緑樹の葉が強い日差しを照り返す風景は、まるで異国へ来たかのように映りました。

伊豆諸島は、大島、新島、神津島、三宅島など9つの有人島と100余りの島嶼からなり、離島ならではの生物相を作り上げています。中でも、三宅島はバードアイランドと呼ばれ、多くの鳥が暮らしています。海岸沿いの草原ではウチヤマセンニュウがあちこちでディスプレイフライトをし、森からはアカコッコや(オーストン)ヤマガラなど小鳥たちの声が響いてきます(()内は亜種名)。繁殖期、夜明け前の森で一斉にアカコッコが鳴き始めます。あちこちから聞こえてくるさえずりに感動して聞き入っていると、あっという間に森が静かになり驚きます。実は、アカコッコのさえずりのピークは日の出30分前から15~30分ととても短いのです。そのためアカコッコの調査はまだ暗い時間に始めなければなりません。アカコッコが鳴き始めるのを待っていると、直前までアオバズクが鳴いていたりします。

目を転じて海を見ると、カツオドリ、オオミズナギドリなど多くの海鳥を見ることができます。が、私にとって伊豆諸島の海鳥といったらカンムリウミスズメです。北海道には非繁殖期にやってきますが、その頃には残念なことに名前の由来になっている冠羽は抜け落ちてしまっています。一年のほとんどを日本の近海を移動しながら過ごしますが、繁殖期になると繁殖地の島嶼に戻ってきます。伊豆諸島は二番目の規模を持つ重要な繁殖地域になっていますが、各島の繁殖状況は近年情報がほとんどないため、この数年調査を続けています。

カンムリウミスズメが繁殖する島の多くは、小さな無人の火山島で、海から岩場が切り立つような場所です。島の周りを遊漁船に乗って周回しながら行う個体数調査は、船酔いに耐え、上下左右の揺れを踏ん張れば難なく行うことができますが、上陸調査はとても大変です。船の舳先を上陸可能な岩場に波のタイミングを計って押し付けてもらい、急いで岩場に飛び移ります。上陸出来たら出来たで、背の丈より大きな岩を乗り越えたり、切り立った崖に立ち向かわなければなりません。小さな島にもかかわらずアクセスできる場所が限られ、繁殖確認をするのはとても大変です。しかし、こうした厳しい環境が、陸上では器用に動けないカンムリウミスズメたちを守ってくれているのです。

残念なことにカンムリウミスズメもアカコッコも個体数が減少し、絶滅危惧種に指定されています。今後も生息環境や減少要因の調査を行うとともに、人工巣の開発や森づくりなど繁殖環境を改善する取り組みを続け、保護を進めていきたいと考えています。

繁殖地の島に上陸したカンムリウミスズメ(センサーカメラ(赤外線)で撮影)2016.4.23 午後11時14分

繁殖地の島に上陸したカンムリウミスズメ(センサーカメラ(赤外線)で撮影)2016.4.23 午後11時14分

支部報「カッコウ」2016年11月号より