水の旅
私はこの1年、ブナセンターの職員として黒松内小学校の総合学習「ブナ里学習」に関わってきました。その中で「環境」というものを再認識する機会があったので、今回はそのことについて書いてみようと思います。
ブナ里学習では、3年生は北限のブナ林を構成する樹木、4年生は本流にダムのない朱太川の生き物、5年生は町の特産品であるもち米作り、6年生は100万年前に海の底にあった黒松内の大地の成り立ちや町の歴史というテーマをもとに、生き物同士のつながり、森・川・海・大地のつながりについて学びます。私は最初、米作りは他との関係性がないテーマではないかと思っていたのですが、森・川・海のつながりを学ぶための大切なテーマだったのです。
5年生の子どもたちは、実際に田んぼで米作りを体験します。そこで子どもたちに、田んぼに不可欠な水はどこから来て、どこへ行くのか聞くと、ほとんどの子が森→川→田→川→海→雲→雨→森と答えます。ですが、森から川へどのようにして水が流れていくのかを知っている子はほとんどいません。
その流れを確かめるために森へ行きます。子どもたちは腐葉土を観察することで、森の土が果たしている雨水を受け止めるスポンジとしての役割を知ります。それから沢を登り、森の土からしみ出す川への「最初の一滴」を見ることで、森から川への水の流れを実感します。
森から川、川から田に流れてきた水は、米を食べることで自分の体に入ります。今度は子どもたちに、自分の体を通った水はその後どこへ行くのか想像してもらいます。例えば、米→自分→下水処理場→朱太川→川魚→カワセミ→糞→ブナ林→アリ→クマゲラ→糞→ブナ林→朱太川→田→米と、巡り巡ってまた自分の食べる米に戻ってくる水の旅も想像できます。子どもたちはこうして、森や川などの環境と自分たちの体が、水を介してつながっていることに気付くのです。
ブナ里学習に関わるまで、「環境教育とは何か」と聞かれたら、「森や川など環境同士のつながりや、人と自然の関わりを学ぶこと」だと答えていました。今は、「全ての環境がつながっていること、そして自分自身もその環境の一部であるということに、気付くためのきっかけを作ること」だと答えます。「環境」は人ごとではなく、自分のことだと気付けたら誰だって、環境を大切にしよう、良くしていこうとあたり前に思えるはずです。
皆さんが普段飲んでいる水は、どのような旅をしてきたのか想像してみてください。