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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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渡り鳥には磁気が見えている?

日本野鳥の会札幌支部会員  関 純彦

 昨年のネイチャー誌で、ヨーロッパコマドリの目に存在する「クリプトクロム4」というタンパク質が地球の磁場に反応するという研究が目にとまりました(1)。同号の総説(2)によると、鳥は天文情報や地形などに加え「自らの磁気コンパス」で方角を決めていると考えられてきました。しかし、どの器官がどういう仕組で感知するのか長らく謎でした。

 古くは、マグネタイドという鉄分が体にあり、それに磁力が加わると神経に伝わると考えられました。磁力とは「磁石に鉄がくっつく力」と考えている私たちには理解しやすい仮説です。しかし、マグネタイドは鳩の嘴で発見されてはいるものの、実際に働いている証拠はありません。

 そもそも地球の磁場は約0.5ガウス、磁石は1000ガウス以上なので鉄を動かす力よりずっと微力です。そこで、もっと小さな素粒子レベルの仕組みが提唱されました。

 極めて簡略化した図を作成してみました。「クリプトクロム4」は鳥類、魚類、両生類の網膜で見つかっています(人間には無いようです)。クリプトクロムに光が当たると、電子が1個だけ移動してきますが、軌道に1個しかない不対電子は移動しやすく、この不安定な状態を「ラジカル」と呼びます。ラジカルは別のラジカルと互いに電子を移動させ合い、ラジカル対を成します。ラジカル対は電子の自転方向によって、安定状態に戻りやすい一重項と、ラジカル状態を維持する三重項に分かれますが、磁場がこの比率に影響を与える結果、方角の違いによってクリプトクロムのラジカル状態も変化するはず、という仮説です。

 この「ラジカル対機構説」は1978年に提唱されましたが、弱い地球の磁場上で微妙な反応を実験的に証明するのは困難で、人工的に強力な磁場を作ったり、磁気に敏感な物質を代用するなど工夫をしても、間接的な証拠しか得られてなかったのです。しかし今回、コマドリの網膜に存在する「クリプトクロム4」が地球の磁場に十分に反応することを、世界で初めて直接証明したというわけです。

 どうやら渡り鳥は網膜で磁気を感知し、方角を判断しているようです。つまり、渡り鳥には「南北の違いが実際に見えている」と考えられます。いったいどんなふうに見えているのでしょうか? 明るさが違ったり、あるいは色が変わったりして見えているのでしょうか? 今後の研究の発展に期待しています。

参考文献 

1) Xu J. et al. Nature 464, 1140-1142, 2021
2) Warrant EJ. Nature 464, 497-498, 2021

支部報「カッコウ」2022年 3,4月号より