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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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春国岱の秋の花、ウラギク

公益財団法人日本野鳥の会 春国岱原生野鳥公園担当レンジャー 稲葉 一将

 9⽉の春国岱の草原では、淡い紫⾊のウラギクの花が咲き始めます。ウラギクは、北海道東部や関東以⻄、四国、九州の塩分の多い湿地(塩性湿地)に生育するノギクの一種です。

 ウラギクは、生育環境が限られていることから、海岸の埋め立てなどにより全国的に減少しており、環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧に指定されています。春国岱では、かつて木道沿いに高さ60cmほどのまとまった群落が見られましたが(写真1)、現在は、20cmほどの高さのものがまばらに生えている程度です。激減してしまった原因は、近年増加したエゾシカに食べられてしまったからです。

 エゾシカは、1年を通して春国岱に多数生息しており、特に秋から冬は、100頭以上の群れが見られます。春国岱は、食べ物が豊富で、狩猟・捕獲圧がないことからエゾシカにとって快適な場所になっていると思われます。エゾシカの増加は、ハマナス群落の減少や湿地の植物の踏み荒らしなども招いていており、春国岱の植生は危機的な状況に陥っています。

2005年9月13日に撮影されたウラギクの群落

 そこで、2014年に、ハマナス保護のため根室市歴史と自然の資料館と当会レンジャー等が参加する「根室ワイズユースの会」が共同で、一部の群落の周囲に防鹿柵を設置しました。柵の中では、ハマナスの樹高が伸び、エゾフウロやエゾノシシウドなどの草原の植物も多く復活してきました。また、2020年からは、環境省が中心となってエゾシカによるウラギクやアッケシソウなどの塩性湿地の植物の調査も始まりました。

 徐々にではありますが、春国岱の植生復活への道が切り開かれつつあります。秋風に揺れるウラギクの群落を再び見られる日もそう遠くないことかもしれません。

支部報「カッコウ」2021年 10,11月号より