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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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シマフクロウ、西に広がる。道央圏は目の前に。

公益財団法人日本野鳥の会野鳥保護区事業所 松本 潤慶

日高地域の山の中。林内での作業を終えて帰り支度をしていると、日が陰った森の奥から「ボーボー」「ウー」という腹に響く低い声が聴こえてきました。シマフクロウの鳴き交わしの声です。日没後の世界は彼らが主役。まずい、早く帰らねば。彼らの生活を脅かさないためにも、私たちは大急ぎで荷物をまとめて森を後にしました。

この森は(公財)日本野鳥の会の「持田野鳥保護区シマフクロウ日高第1」の河畔林。1998年からシマフクロウ1つがいの繁殖が確認されており、2007年からは当会が民有林を購入して野鳥保護区の設置を進めている生息地です。

シマフクロウ1

研究者の調査によれば、シマフクロウの繁殖には100㎡に30尾以上の密度で20㎝程の大きさの魚がいる河川環境が必要なのだとか。そのような川は、北海道と言えど、そうあるものではありません。一見豊かに見えるこの河畔林も、シマフクロウが繁殖するには餌が不足している状況でした。

その対策として、私たちは環境省から引継ぐ形で2011年に給餌場を設置しました。そして河川の餌資源量を調査しながら適正な時期に適正量のヤマメを補填しています。この給餌場には、シマフクロウだけでなく、オオワシ、オジロワシ、ヤマセミなども魚を求めてやってきます。たまに姿を現すヒグマには困ったものですが、この給餌により繁殖成功率が上がり、若鳥たちが野鳥保護区から北海道内各地に広がってくれることを期待しています。

給餌場に魚を追加

以前は道東の鳥だったシマフクロウですが、今では日高山脈以西でも繁殖を始めています。間もなく道央圏でも姿が見られる時代がやってきます。しかし太陽光発電のための伐採や、河川改修、分散経路上の風力発電所建設計画など、日高・道央圏ではシマフクロウの分散の障害が多く、課題は山積みです。私たちは、ウトナイ湖サンクチュアリ内に移転した野鳥保護区事業所を拠点に、皆さんと一緒に日高山脈以西のシマフクロウの生息地保全を考えていきたいと思います。

※当会の給餌活動は、環境省の保護増殖事業者として実施しています。

支部報「カッコウ」2021年4月号より