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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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ハクチョウが減っている?

宮島沼水鳥・湿地センター 牛山克巳

 中国でハクチョウ類の国際会議が開催されることになり,国内の状況について報告することになった。調べてみると何か変だ。日本のハクチョウ類は1980年代から急激に増加しているが,ここ十年くらいは減少傾向に転じている。その理由がよくわからない。

 データの精度の問題もあるだろう。参考にしたのは環境省のガンカモ類生息調査のデータだが,2008年の鳥インフルエンザの発生以降各地で給餌が自粛されると,ハクチョウ類が分散して従来のカウント方法では全数が抑えにくくなっていると聞く。しかし,例え数え落としによる減少はあるとしても,それだけでは年々減少傾向が続いている説明にはならない。

チャウンデルタのコハクチョウ。

写真:チャウンデルタのコハクチョウ。(提供:DIANA V. SOLOVYEVA)

 仮にハクチョウ類が本当に減少しているとすると,それは繁殖率と生存率の低下,国外への移出から説明できることになるが,国内で大幅に生存率が低下しているとは考えにくい。中国でもコハクチョウは減少しているらしいので,国外に越冬地を移したわけでもなさそうだ。ロシアの中継地での環境変化や狩猟圧についてはよくわからないが,それほどの影響は与えていないと信じたい。

 では繁殖地ではどうだろう。国内で越冬するコハクチョウの多くが繁殖するチャウンデルタから気になる調査結果が報告された。2002年の調査開始以降巣数が減少し,約8%の巣では産卵が見られず,それ以外の巣でも一腹卵数が減少しているというのだ。チャウンデルタのコハクチョウは1980年代の2,000羽から2002年の45,000羽と急速に増加しており,環境収容力を超えたことによって繁殖率が低下する密度効果が表れていると考えられている。

 総じてみると,コハクチョウは給餌等によって越冬地の生存率が増加し,個体数も増えたが,今度は増えすぎたことによって繁殖率の低下がもたらされていると考えられるだろう。同様なケースは北米のハクガンでも見られるが,ハクガンの場合は増えすぎたことで脆弱な極地植生にもダメージを与えている。増えすぎたコハクチョウが間接的に与えている影響も調べてみればあるだろう。

 不思議なことに,古い日本画を調べてみてもハクチョウが描かれているものは見つけられなかった。万葉集などで歌われていることも思ったより少ない。もしかしたらハクチョウ類の個体数は元々それほど多くなかったのかもしれず,ハクチョウ類保全のあり方について再考が必要ではないかと感じている。

支部報「カッコウ」2020年3月号より