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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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二枚貝の中にカニを見つけた経験はありませんか?
~カクレガニの不思議な生態~

公益財団法人 日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
レンジャー 田島奏一朗

突然ですが、皆さんは味噌汁やレストランでムール貝の入った料理を食べた際に、「二枚貝の中にオレンジ色の小さなカニが入っていた」という経験はないでしょうか。私は大学時代、このカニについて研究していたので、その不思議な生態をご紹介します。

フタハピンノと宿主二枚貝

まず、端的にいうと二枚貝の中で見つかるカニ(カクレガニ)は貝に食べられているわけではなく、寄生または共生し、貝の食べる餌を横取りしています。二枚貝が隠れ家になっているのです。研究対象であるフタハピンノは数種類の二枚貝に寄生し、その寄生率は約80%もありました。では一体どのように二枚貝の中に入るのかというと、抱卵後に孵化した幼生が稚ガニとなった段階で貝へ侵入すると考えられています。また、成長したカニ(最大で甲幅1㎝程度)も二枚貝を自由に出入りできますが、飼育実験では貝に挟まり身動きがとれずにいる面白い光景も見られました。海外では別種のカクレガニが二枚貝の縁の隙間を最長4時間くすぐり続けて侵入することもわかっています。さらに寄生するフタハピンノと寄生された二枚貝の大きさの関係を見てみると、貝が大きいほど寄生するフタハピンノも大きくなっていました。二枚貝の閉じ込められた暗い世界の中で、カクレガニはひっそりと成長しながら暮らしているのです。

しかし、二枚貝の側から見るとよそ者が侵入してくるのは迷惑な話です。何か影響があるのか身入率(軟体部湿重量/殻重量×100%)を用いて調べたところ、フタハピンノに寄生された二枚貝は、寄生されていない二枚貝よりも中身の重さが少なくなっていました。フタハピンノの体サイズが大きくなるほど横取りされる餌の量も増えるため、悪影響が出てしまうのかもしれません。普段よく口にするアサリやマガキなどに寄生する別種でも、身入りに悪影響を及ぼすことがわかっています。

カクレガニは交尾をどこで行うか等、まだまだ生態の解明されていない謎めいた生きものです。皆さんも二枚貝を食べる際は、カクレガニが入っていないかどうか意識して探してみてはいかがですか。

支部報「カッコウ」2019年10月号より