十勝の植物研究を標本から支援する試み
帯広百年記念館は、帯広市の緑ヶ丘公園に位置する総合博物館です。十勝(1市19町村)に関する自然史・歴史・民族および美術に関する資料の収集保存と調査研究、展示をはじめとする各種教育普及事業に取り組んでいます。
十勝の植物相については、1951年に横山春男が『十勝植物誌』(横山1951)をまとめています。十勝全域に関する証拠標本を伴ったフロラ研究誌としては、現在まで唯一のものです。
横山は本書の中で112科937種の植物を記録しています。以後、上士幌町や本別町、豊頃丘陵、然別湖など、地域的、断片的なフロラ報告はありますが、十勝全域に関する植物相研究は現在までに刊行されていません。一方、帯広百年記念館には、横山(1951)以後に採集された圏内の植物標本が約10000点収蔵されており、これらを整理する事で、十勝における植物相の変遷や分布実態、分類学的な特徴についての研究に、大きく貢献する事ができます。今後、十勝圏内外の市民や研究者に有効に活用いただけるよう、標本情報の発信と閲覧環境の整備が急務となっています。
そこで、今年度から国立科学博物館が推進するサイエンス・ミュージアムネット(S-Net)事業に参加し、当館の所蔵標本の情報を、インターネットを使って全国に発信していく取り組みを始めました。今年度は第1段階として2500件の標本情報を登録する見込みで作業を進めており、来年度早々には公開される模様です。
また、あわせて来訪者の標本調査がしやすいよう、分類別の整理や標本棚の整備を進めます。特に標本棚の整備は予算上の制約もあって長期の課題ですが、暫定的な仮収蔵棚の設置によって、多くの方に利用しやすい形での収蔵環境を早急に整えたいと考えています。
一方、先述の横山(1951)が収集した植物標本は、記録によれば池田高等女学校と北海道大学農学部に納められた事になっています。池田高等女学校は現在の北海道池田高等学校ですが、残念ながら数回の大きな火災によって、標本類は消失したと考えられています。もうひとつの北海道大学農学部の標本は、北海道大学総合博物館へ移管され、現在も保存・活用がされています。いったい『十勝植物誌』の標本がどの程度現存しているのか?その実態を明らかにし、時代による分類学的な見解の違いなど、現在の科学的知見から標本の再検討を行う事も課題です。