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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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抱卵をする昆虫―マルハナバチ

さっぽろ自然調査館 丹羽真一
エゾコマルハナバチ巣内

エゾコマルハナバチ巣内

北国の野山が一年でもっとも生き物たちで賑わう季節になりました。この時期、夏鳥が大忙しで子育てする傍らでは、花から花へと飛び回り、蜜や花粉を集めているマルハナバチの姿を観察できます。

マルハナは北方系の昆虫で、北海道では身近な生き物の一つです。海岸から高山、森林から草原、市街地まで分布しています。バードウォッチングのときに足元を飛ぶ姿を見ることも多いでしょう。

意外にも、マルハナには鳥との共通点がいろいろあります。第一に「飛ぶ」生き物であることです。敏捷性と力強さを兼ね備えたその飛翔力は、昆虫の中では群を抜いています。第二に、あまり知られていないことですが、高い体温を持っていることです。恒温性はありませんが、飛翔時の体温は35-40℃になり、低温環境でも活発に活動できます。第三に、これがもっとも重要な点ですが、巣を作ることです。「巣」を作る昆虫はたくさんいますが、子育てをするのは社会性昆虫と呼ばれる一握りの昆虫だけです。たくさんの幼虫を育てるため、1日に何度も巣と餌場を往復して蜜や花粉を集め、時には巣から数キロも離れた場所まで出かけることもあります。私はエゾコマルハナバチの巣を自宅で飼って観察したことがあり、働きバチが巣箱から次々と出入りする姿に感銘を受けましたが、小鳥よりもはるかに小さな脳で広い空間をどうやって把握できているのか本当に不思議でした。第四に、マルハナも抱卵をします。マルハナが営巣を始める5~6月は朝晩はまだ寒く、女王バチは卵や幼虫が入った初期巣と呼ばれる容器を抱きかかえるようにして暖め、発育を促します(このときも高い体温が役立つ)。ほかにも、高い学習能力や娘(新女王)によるヘルパー行動、托卵などの共通点を挙げられます。

鳥との関係は、直接的には「食う(鳥)-食われる(マルハナ)」関係です。モズはマルハナのはやにえを作ることが知られます。ただし、マルハナもいざというときには毒針で反撃するので、どの程度鳥に食べられているかは分かりません。一方で、マルハナが授粉して結実した液果を小鳥が食べるという形で、間接的なつながりを持っているといえます。

マルハナはおとなしいハチです。野鳥観察などで野山に出かけたときに、ついでにちょっとマルハナにも注意を払ってもらえれば幸いです。

支部報「カッコウ」2016年 6月号より