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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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雁の「龍」に魅せられて

ウトナイ湖サンクチュアリ・レンジャー  小山留美

15119月下旬から12月上旬、また、3月上旬から4月中旬にかけて苫小牧市東部に位置するウトナイ湖には、オオハクチョウやコハクチョウ、ヒドリガモやオナガガモなど数種類のカモの他、マガンやヒシクイなどの雁(ガン)類が飛来します。
同湖を訪れる「雁」の数は、秋は多くて4千羽、春は10万羽を数えたことも。彼らが頭の上をV字の編隊を組んで飛んでいく時、にぎやかな声はもちろん、力強く風を切る羽ばたきの音が迫って聞こえ、横シマ模様のマガンのお腹や、つるりと灰白っぽいヒシクイのお腹がくっきりと見えることもあります。
たくさんの鳥が一気に飛ぶ景色は、多くの人の心を揺さぶるようです。たまたまセンターを訪れていた観光客、いつものように遊びに来ていた家族、違う鳥を写真に撮ろうと思っていた人も、皆思わず「わあ!」と声を上げます。
私が初めて雁に心奪われたのは、数年前の早春でした。
朝もやの中、湖の南岸(観察地点から見て対岸)側にキャワキャワと落ち着きなく、うごめく群れがあります。夜明けはもうすぐ。今日の行き先を打ち合わせてでもいるのか、ざわめきは大きくなる一方です。
ところが、それまで好き勝手に餌採や水浴びをしていた雁たちが、ふと、一斉に首をもたげ、ある一方を望みます。一瞬の沈黙。静けさが行き渡ると同時に、どっと羽音を立て、湖上に大群が持ち上がりました。その後、群れはうねるように空を駆け、ワ―という「音」にしか聞こえない声を上げながら、思い思いの方向に散っていきました。
ウトナイ湖で「龍」を見たと思いました。
レンジャーになる前のことです。昔から草木のあるところや動物が好きで、人生のほとんどを苫小牧で過ごしている地元民ですが、こんな場面が見られる場所があったのかと思いました。それから、彼らの飛び立ちが見たくて、春の雁カウント調査に何度かボランティア参加したりもしました。数える技術は高くありませんが、毎度その場面に立ち会えることがとても嬉しく、レンジャーになって3年目の今も、その気持ちに変わりはありません。
日々移り変わる湖や周辺の自然の様子を見られること、そして、何より心揺さぶる雁に出会えたこと。それが今、私がここで働いている原点なのだと思います。
当センターでは、雁類が再びやって来る来年の春、観察会や彼らをテーマにしたアート展などを開きます。雁をきっかけにセンターへ足をお運びいただければ幸いです。

写真説明:ねぐら立ちする雁の群れ(ウトナイ湖)