*

Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

Home

スズメ

熊谷勝 写真家

スズメの写真

野鳥を撮影し初めて今年で30数年が経った。何年経ってもなかなか思い通りのイメージで撮影することができない鳥がいる。スズメだ。危険な断崖絶壁に生息し、警戒心が強いハヤブサの自信作は何百枚とあるのだが、何時も目にしているスズメだけは一枚も無い。実は見なれた鳥ほど作品化することが難しい。

スズメは最も人間に身近な野鳥であるため、昔から水墨画や日本画などに多く描かれてきた。特に江戸時代の絵師丸山応挙の弟子だった長沢芦雪(ろせつ)のスズメの水墨画数点はすばらしい。スズメたちの表情、構図、空間処理、全体のリズムと緊張感、おそらくスズメの絵の最高傑作であろう。しかし、写真ではこれまですばらしいと思えるスズメの作品を私は一度も目にしたことがない。おそらく日本で見られる鳥たちの中でスズメが最も撮影が難しい鳥なのかもしれない。もちろん、ただ写すことだけならば容易いことなのだが、自分のイメージした絵作りとなると、これがなかなか簡単ではない。昨今つくづく身近な鳥たちを作品化することの難しさを感じている。

ところで「スズメのお宿」と言えば昔から竹やぶと決まっている。私にはこの「スズメのお宿」に子どもの頃の苦い思い出がある。岩手の山間部の小さな町で育った私は物心付いたころからの鳥好きであった。小学6年ある日、近所のおじさんが鳥好きの私のことを知ってこんなことを教えてくれた。裏山の竹やぶがスズメたちのねぐらで、真夜中に行って大きな竹を揺すると、スズメたちは鳥目で周りが全く見えないため、足元にぼたぼたと落ちてきて、簡単に捕まえられるというのである。当時純真な私はそのことを信じた。さすがに一人では怖いので、友達を誘い二人で翌日の晩に竹やぶへと出かけたのである。裏山の竹やぶに着くと確かにスズメたち「チュン、チュン」という騒がしい声が聞こえてきた。これはしめしめと思いながら、私と友達はそっと声がする辺りの竹の根元に近づき、思いっきり大きな竹を揺すってみた。すると、スズメたちは一斉に暗闇の空へと飛び去ってしまった。何度やっても同じで、ぼたぼたと落ちてくるのは毛虫だけであった。騙された。一般に昼間活動している鳥たちは、暗闇では目は全く見えず、飛ぶ事が出来ないと思われているが、実際は人間の目よりもはるかによく見えており、水鳥やヒタキ類などのようには夜間に渡りを行なうものも多い。子どもの頃このこと知っていれば騙されなかったのだが。

支部報「カッコウ」2015年4月号より