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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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木漏れ日が降り注ぐ水面

ウトナイ湖サンクチュアリレンジャー 松岡 佑昌

ウトナイ湖周辺は9月11日の記録的大雨の影響で川が増水し、その水の受け皿であるウトナイ湖がオーバーフローしました。その結果周辺の林は水につかり、木道の多くが水没しました。地面に固定されていない木道は浮き船のようになっており体重を乗せるとグラグラと揺れました。ネイチャーセンターは高床式構造が幸いして浸水はなかったものの周囲が水にかこまれてしまい長靴なしでは出勤できなくなりました。十数年ぶりのできごとだそうです。

赴任一年目の私はもちろんのこと、現在勤務するすべてのレンジャーが初めて体験するできごとで、一同大興奮でした。散策路の巡回に託けて普段見ることのできない林に順番に探検しにいきました。歩いてみると、地表徘徊性のゴミムシやクモが少しでも高い場所にと避難したかったのか浮き船状態になった木道の上にのっているのを頻繁に見かけました。彼らからするとノアの方舟のような感覚だったのでしょうか。

ひとたび木道を抜け、自然道に差し掛かると私はそこに広がる光景に目を奪われました。散策路一面に広がる水面に木漏れ日が差し込みキラキラと輝き、かすかに写りこむ青空は鉄分を含んだ赤茶の水の色と混ざりあいなんとも表現しがたい世界を作っていたのです。歩くとそこに波紋が広がってしまうので、ときどき立ち止まっては見とれていました。

水の底をよくみると、見慣れた散策路の土や木の根っこが見え、その上をコイなどの魚が泳いでいました。歩くとときどき根っこにつまずきころびそうになりました。オタルマップ川の近くを歩いたとき、普段川筋近くでしか見られないカワセミの声が川筋から外れた場所からも聞こえてきました。きっと小さい魚が川から外れたところを泳いでいたのでしょう。また、この時期花盛りを迎えているエゾリンドウは水の上にかろうじて顔を出す程度で、まるで水中花のようでした。その他にもそこにはたくさんの日常と非日常の世界が絶妙なバランスで共存していました。

自然道の様子

自然道の様子

楽しい時間にはいつか必ず終わりがくるもので、4日経った現在ではすでにかなり水が引いてしまいました。しかし、ほんの一瞬しか見られないからこそ美しく感じることができるのではないかと思います。私たちはそんな一瞬の出会いを大切にしなくてはいけないのかもしれないと考えさせられたできごとでした。

支部報「カッコウ」2014年10月号より