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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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スズメの大量死の原因は「サルモネラ」

空知家畜保健衛生所 酪農学園大学研究生 中野 良宣

2005年~’06の冬季にみられたスズメの激減・大量死はすでに過去のこととなり、生息数も回復してきているようです。この異常な出来事の原因はいったいなんだったのでしょうか。

高病原性トリインフルエンザや気候、融雪剤の影響などのほか、新たな視点として、麻布大学の宇根先生がサルモネラの関与について報告しています。しかし、道央圏を舞台とした大規模な事象の原因としては最終的な結論のないまま現在にいたっていると言えましょう。

‘06年4月、騒ぎのさなか、旭川市内で網羅的なスズメの死体の採集が行われ、酪農学園大学野生動物医学センターに冷凍保管されていました。これらの死体は、原因追究の大きな手がかりですが、乾燥や変性が著しく詳しい検査には適さないことから手つかずのままでした。

‘10年、私は、定年退職を機に酪農学園大学の研究生として在学し、保存されていたスズメの死体と取り組むことにしました。以下、その結果を簡単に記させてもらいます。

原因として、細菌の関与から取り組むこととし、サルモネラの分離を試みました。死体の変性や保存期間が4年以上にわたることから培養検査に加え、PCR法による遺伝子の検索や抗体の検索もあわせて行いました。その結果、旭川市内から採取された47羽中6羽からサルモネラが分離されました。遺伝子や抗体の検索では菌分離陰性の41羽中33羽で反応があり、あわせて47羽中39羽(83%)にサルモネラの関与が認められました。’06年春季に滝川市、富良野市、札幌市、苫小牧市において採取されたスズメ17羽についても検査を行い、サルモネラは分離されませんでしたが、全羽が遺伝子あるいは抗体の検査で陽性でした。また、大量死発生時期とは異なる時期に採取されたスズメ10羽を対照として同様の検査を行いましたが、いずれの反応も認めませんでした。検出されたサルモネラは、小鳥に強い病原性を示す特殊なタイプのネズミチフス菌(ファージタイプDT40)であることが判明しました。

以上のことから、2005年~’06の冬季みられたスズメの大量死は、この特殊なサルモネラが道央圏のスズメの間に蔓延し引き起こされた可能性が極めて高いと考えました。

今回検出されたサルモネラと同じタイプのサルモネラは、欧州において冬期間にスズメを含む小鳥を大量に殺すことで恐れられており、20世紀末からは北米やニュージーランドでもスズメなどの小鳥に猛威をふるいました。日本ではこれまで検出したことのないタイプのサルモネラであり、新たな侵入(多分北からの)が今回の北海道におけるスズメの大量死を引き起こしたと考えられます。

この菌は、哺乳類に対する病原性は低いことが知られており、当時、スズメを通じて畜舎が広く汚染されましたが、家畜での発症例は2~3にとどまりました。イヌやネコを通じて家庭内にも侵入したと推定されますが、人での集団的な被害は見られません。しかし、感染症に関連し、野生動物と家畜、人がこのような極めて近接した関係にあることをまのあたりにした事例でもあったと考えられます。

支部報「カッコウ」2013年5月号より