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Sapporo Chapter Wild Bird Society of Japan

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バードウォッチング長靴誕生物語

日本野鳥の会普及室 瀬古智貫

 「バードショップに若い女性が来ているぞ」という声が聞こえてきたので、のぞいてみると・・・。確かに20代の女性が「バードウォッチング長靴」を選んでいます。(公財)日本野鳥の会の事務所に隣接しているバードショップのお客様の中心は、50~60代の男性。若い女性は、まさに珍鳥です。恐る恐る「何に使うのですか?」と聞くと、「野外フェスティバルです」「テント等荷物が多くて、小さくなる長靴はGOOD!!しかも軽いから長時間履いていても疲れないし、フィットしたつくりなので会場内を移動する時にダッシュできるし!」と、こちらが想定していない使い方を教えてくれました。その後、口コミで広がり、ガーデニングやゲリラ豪雨対策、普段使いと広がっていきました。

長靴誕生物語写真

 ところで皆さんは「バードウォッチング長靴」をご存知でしょうか?小さくして持ち運びのできる長靴で、ぬかるみや干潟等、バードウォッチングシーンで必要な時に取り出して使用することを目的とした商品です。昨年は、長年にわたり消費者に支持されている商品に贈られる「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しました。
商品誕生のきっかけは、日本野鳥の会会員からのメールでした。この方が北海道にバードウォッチング旅行に行った際、長靴が必要な場面になってしまいました。最初は通常の長靴を購入しようとしたそうですが、旅行中のため大きくて嵩張る長靴を持って帰るのは大変。かといって、捨ててしまうのはもったいない。悩んでいると、田植え用長靴が目に入りました。田植え用長靴はゴムが薄いため、小さくまるまった状態で販売されていました。これなら使った後も小さくなるので、持って帰れる!と思い、その場で購入しました。さらに、実際に使ってみると、なかなかの使い心地。これを商品化したら面白いのではないか!と思い、帰宅後、すぐに日本野鳥の会と田植え用長靴の製造メーカーに、北海道での体験談を記したメールを送ってくれたのです。

 この「奇跡のメール」がきっかけとなり、日本野鳥の会とメーカーが出会い商品企画が進み、2004年4月にバードウォチング長靴が発売されました。
田植え用長靴を製造しているメーカーの方は、「長年田植え長靴を見ていて、小さくなることは当たり前だった。しかし、この機能が持ち運べるという発想には全く繋がらなかった。十年以上経った今でも驚きです。」と話しています。
商品企画というと、顧客ニーズ、マーケティング等、少しハードルの高い話に聞こえてしまうかもしれませんが、ヒントは意外と身近な場所にあるのかもしれません。商品や情報が溢れる今の時代、全く新しい物を作り出すのは難しいと思いますが、今ある商品の見方や使い方を変えると…。ほら、そこにも! あそこにも! あなたも、大ヒット商品の生みの親になれるかもしれませんね。

支部報「カッコウ」2017年4月号より